月の輪通信 日々の想い
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例年通り、年内最終日までもつれ込んだ年賀状書き。 工房の仕事上の年賀状は、事務所のPCと我が家のPCをフル回転で刷り上げる。プリンターへのはがきの補給やインクの補充などPC番は数年前から子どもたちの仕事になった。 大掃除やPC番の合間に私や子どもたちは自分の分の年賀状を手書きで仕上げる。今年は一年生になったアプコも近所の友達や学校の先生にかわいい犬のイラストの賀状を何枚か書き上げてご満悦。 「これ、今からKちゃんちへ持って行ってポストに入れて来てもいい?」 駄目駄目。今日はまだ大晦日。 いくらご近所だからって、まだ配達しちゃ駄目じゃん。
「できた!これでどう?」 ゲンの年賀状には、小さな2匹の動物のイラスト。 その下に「サルは去るのみ・・・」の文字。 ああ、考えたね。 サルから犬へのバトンタッチか。イラストもかわいいし、上出来じゃん。 皆に褒められて、上機嫌で宛名を書くゲン。 子どもたちの年賀状もぎりぎり年内に仕上がったようだ。
「・・・・でもなぁ、」 父さんがあとからこっそりささやいた。 「やっぱり投函する前に言っておいてやったほうがいいよね。・・・戌年の前はサルじゃなくて、酉年なんだけど。」 あああ! そうでした! ゲンの即妙の駄洒落に気をとられて気がつかなかったけど、今年は酉年だったっけ! 「ねぇねぇ、オニイ。」と聞いてみたら、実はオニイもゲンの勘違いに気がついたけれど、あんまりゲンが仕上がりに満足そうなものだから言い出しかねていたらしい。 う〜ん、駄洒落の思いつきはよかったんだけどねぇ。 「言ったらきっと、ゲン、へこむよね。」
結局、投函寸前になって父さんがゲンに伝えた。 「あのな、ポストに入れる前に教えておいたほうがいいと思うんだ、年賀状のことだけどね。ゲン、十二支を始めから順番に行ってみ。」 きょとんとした顔のゲン、ね、うし、とら、う、・・・と唱えていって途中で「ああーっ!」と自分の勘違いに気がついた。 快心の出来と大得意だっただけに、ショックでしばし言葉を失う。 「もっと早く教えてくれたらよかったのに・・・」と半べそ状態だ。 「そんなに落ち込むことないよ。デザインは面白いし、全然駄目ってわけじゃないじゃないから・・・。」 皆が傍からいろいろフォローしたけれど、ゲンのショックは大きかったようだ。
それではと、父さんと一緒に考えておいた苦肉の策をゲンに授ける。 「じゃあね、『サルは去るのみ』のあとにね、『とりあえず』っていれてみ。なんとか誤魔化せるんじゃない?」 ゲンはしばらく考えてから、年賀状に筆ペンで「とりあえず」の文字を書き加え、「とり」のうえに傍点を付け加えた。 よしよし、ご機嫌が直ってなによりなにより。
それにしても一年の終わりを思いがけない失敗で笑わせてくれるゲンの愉快さ。 「とりあえず」は、凹んでも気持ちを切り替えるのが得意なゲンのいつもの口癖だ。 「サルは去るのみ」の駄洒落年賀状は「とりあえず」の5文字を加えてよりゲンらしいエピソードに満ちた楽しい年賀状になった。 「とりあえず」で暮れていく一年も、それもまたよし、ということか。
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