月の輪通信 日々の想い
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2005年12月19日(月) ニンニク

父さんの工房での仕事がいよいよ立て込んできた。
例年通り干支の置物や茶わん、香合の制作に加え、今年は新年の6日から地元の百貨店で茶陶展が開かれることになり、その作品作りも重なった。
いっぱいいっぱいの仕事を抱え、短い仮眠を取るだけで夜昼なく工房へ出かけていく父さん。
髪はいつでも仕事場の埃まみれ。手指は土に脂気をとられてカサカサで、指先にはいくつもひび割れが出来た。連日の寝不足で眼鏡の奥の瞳はいつもしょぼしょぼ。夜毎、茶の間で背中を丸め、香合の仕上げのノルマを消化する姿にも、「鬼気迫る」といった感がある。
毎年毎年の事とはいいながら、大変だなぁと思う。

高齢のひいばあちゃんの仕事場に入る時間が減り、義父も腰痛や持病のヘルペスでぐっと仕事量が減った。その分の仕事の負担も、ここ数年父さんの両肩にどんとのしかかってくるようになった。
新しい人を入れても、私が少々助っ人に入っても、熟練した技術や経験の必要な仕事はどんなに瑣末なことでも父さん以外の人に替わることは出来ない。そのことは父さん自身、一番よくわかっていて、だからぎりぎりいっぱいの体力で山積みの仕事を一つ一つ、砂山を突き崩すようにして片付けていく。
いったいいつまでこんな綱渡りのような仕事の仕方が出来るのだろうと、傍から見ているだけでも怖くなってしまうことがある。

この間、実家の母と電話で話していたら、ニンニクを食べると体が元気になると熱心に勧められた。瓶詰めのしょうゆ漬けのニンニクを日に数個食べ続けるだけで、父の体調がすこぶるよいという。毎年年末仕事の修羅場を知っている母は、ぜひ父さんにもニンニクを勧めなさいという。
うちでは普段料理にもあまりニンニクは使わないし、しょうゆ漬けのニンニクも買ったことはなかったのだけれど、元気が出るというのならとさっそく買ってきて小鉢に入れて食卓に上げた。心配したにおいもそれほどなく、漬物好きの父さんは食事の合間にぽりぽり口へ運ぶ。

「で、元気でたぁ?」
と問う私に、
「出た出た。なかなか効きそうや」
と力瘤のポーズをみせる父さん。
果たして、ニンニクの効果なのか、あまりの過重労働に吹っ切れちゃったカラ元気なのか、私にはわからない。かといって他に何が出来るわけでもなく、ただスーパーに行くたびに、まるでお守りでも買うように、あれこれ違った種類のニンニクを買う。
無力な奥さん。


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