月の輪通信 日々の想い
目次過去未来


2005年11月30日(水) 失敗の楽しさ

5年生陶芸教室2日目。
昨日作ったお茶わんの高台つけ。
その前にデモンストレーションとして父さんが水引きロクロの実演を行う。工房から重たいロクロを運び出し、教室の床に防水のシートを張って設置し、重い粘土を運び込んでの実演はなかなか骨が折れるけれど、子ども達の反応も楽しいし、何よりもプロの仕事の凄さを見せるのには恰好の教材。
父さんがロクロの前に腰を下ろし、土塊をビシャビシャと濡らしながら作業を始めると、子ども達の中からうわぁ!と歓声があがる。
父さんの手の中で自在に姿を変える粘土を見ているのは、いつ見ても楽しい。子どもばかりでなく、私も先生方も子どもと同じレベルで真剣に見入ってしまう。熟練したプロの職人の仕事というのは本当に何度見ても見飽きる事のない面白さがある。

ひととおりの実演が終わると、子ども達の体験コーナー。ジャンケンで勝った5人ばかりの子どもが代わる代わるにロクロの前に座る。
初めての濡れた土の感覚に、「気持ちいい!」と笑う子。「意外と硬いんだなぁ」「ざらざらして手が痛い」としり込みする子。周りの友だちに散々茶々を入れられながら、思うようにならない粘土と格闘する。大概はちゃんとした形にはならなくて、ぐちゃぐちゃに潰れて皆で大爆笑して終わるのだけれど、実際に土に触れていた子は、大勢に笑われてもニコニコと楽しそうな顔をしているのがいい。熟練したプロにしか出来ない難しい作業だという事が分かっているから、大勢の友だちの中で大失敗をして笑われても一緒になって自分もワハハと笑ってしまえる気楽さが気持ちいいのだ。

今年は、体験コーナーの最後に担任の先生方にもロクロの前に座っていただいた。普段教壇に立って教える立場の先生が自分達とおんなじ、初めての体験の挑戦する姿を子ども達はことのほか喜ぶ。周りから茶々を入れたり、ダメだしをしたり、わぁわぁ騒いで大いに盛り上がる。
大の大人が初めての経験にワクワクして、真剣になって、失敗をして、困り果てる姿が面白くて仕方がない。先生方のほうも、ロクロの前に座るとすぐに素の自分に返って、授業そっちのけで作業に没頭してしまわれたりする。それが子ども達には、珍しく、面白いと感じるのだろう。こんなふうに大人が周りのことも気にせず何かに集中している姿を見るという経験が今の子ども達には少ないのかも知れない。
先生方の格闘の成果が、思いがけなくきれいな形に仕上がっても、見るも無残に大失敗しても、子ども達はどちらもそれなりに嬉しそうだ。「僕らの先生」をぐっと身近に感じる楽しさがあったからだろう。

ロクロを体験してくださった3人の先生方のなかで、一番豪快に大失敗をしてくださったのは今年赴任してこられたばかりの若いO先生だった。
初めの手つきはなかなかお上手で、途中で結構上手に形を作っておられたので、以前にどこかでロクロをやってみた事がおありなのかなと思っていたら、最後の最後でフラフラとバランスを崩して出来上がりかけていたお茶わんがあっという間にぐちゃぐちゃに壊れてしまった。
その前にやった子ども達よりもダントツに派手な壊れ方だったので、子ども達は大いに盛り上がり、みんなで大笑いして楽しかった。

あれは、本当に「失敗」だったのだろうか。
先にやって失敗した子達への気遣いや、クラスの盛り上がりを考えてのうえでの「失敗」だったのではないだろうか。だとしたら、O先生の教師としての力量はたいしたものだ。
借りに本当に「失敗」だったとしても、自分の生徒達の前でも恥じずに派手に失敗し、一緒に大笑いできるおおらかさは頼もしい。変に上手を装ったり、失敗を言い訳して取り繕ったりしない素直さがいいのだ。
ロクロを離れ、バケツの水で手を洗うO先生に子ども達が寄り添って、何かしきりに声をかけている。きっと子ども達に慕われる楽しいお姉さん先生なのだろうなぁと思う。

ところで、今日の体験コーナー。
陶器屋の息子であるゲンは、最初から体験希望者に手を挙げなかった。ホントはやりたくて仕方がないはずなのに、やはり遠慮したのだろうか。それとも、昨日の手づくねが不本意な出来だったのでみんなの前でやる事に躊躇していたのかも知れない。
放課後、子ども達が帰ったあとの図工室で後片付けをしていたら、担任のT先生とゲンが手伝いに来てくれた。
きっと来るだろうと思って残しておいた粘土で、父さんがゲンのためにロクロをまわす。案の定ゲンは嬉しそうにロクロの前に座り、ぐちゃぐちゃとこねくり回しては粘土の感触を楽しみ、一人で水引きロクロの楽しさを堪能していた。
ゲンが遊んでいる分だけ片づけの時間が遅くなるので「すみませんねぇ。」とT先生にお詫びをしたら、「いえいえ、こういう場面に立ち会えて、嬉しいです。」と快く言っていただいた。ゲンの嬉しさを一緒に共有してくださるT先生のお気持ちがありがたかった。

「父さんって、結構頼もしいって感じするよなぁ。」
あとで、ゲンがそっと私にささやいた。2日間の授業でゲンにはいろいろと思うところがあったのだろう。
「あったりまえじゃん、プロだもん。」
答える私もちょっと嬉しい。


月の輪 |MAILHomePage

My追加