月の輪通信 日々の想い
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2005年11月29日(火) 壊せない

小学校での5年生の陶芸教室。
今日と明日の二日間、父さんの助手を務める。年に一度の陶芸教室もはや、7,8年目になるだろうか。今年はちょうどゲンの在籍する学年での講座になる。
講師役の父さんだけではなく、友達と一緒に父親の授業を受けるゲンのほうもなんだかそわそわと落ち着かない。
「ほんまに、お父さん来るの?お母さんもくるの?」とわかっているくせに何度も聞きにくる。
まだまだ父さん母さんが参観に顔を出しても「かっこ悪いなぁ」とは言わないゲンだけれど、「両親が先生」という微妙な立場が居心地悪く感じるのだろう。

5年生の3クラス84人が挑戦するのは手づくねによる抹茶茶わん作り。
今日明日に二日間で原型を作り、来年の1月末に一週間かけて、素焼き、施釉、本焼きを行う。
初心者にも失敗がないように、作業の工程を細かくレクチャーしてから制作に入るのだが、大人数の小学生の教室では、クラス全体が最初の説明をちゃんと理解しながら聞くことができる雰囲気が出来上がっているかどうかで、作品の出来に大きな差が出るようだ。毎年のことながら、面白いなぁと思う。
500グラムの土塊をたたくようにして丸くまとめ、その中心部分から少しずつ伸ばし広げて茶盌の形を作る。薄くなりすぎないように指先に感覚を集中させて作業を進めていくのだが、ちょっと油断をすると底の部分が薄くなりすぎたり、茶盌の口がどんどん広がって鉢やお皿になったりしてしまう。
「失敗しそうになったら、早めに救急車を呼んでね!」といっておいたら、それこそあっという間にあちこちで「救急車、お願い!」の声。
机から机を跳び回って、修正したりアドバイスをしたりして、父さんと私、2台の救急車は大忙し。何とか全員の作業を終えた。

手づくねによる茶盌つくりは、途中の過程で土に空気の層が混じることが少なく子どもたちにも比較的失敗の少ない作り方だ。仮に底が抜けそうになっても、平たいお皿の状態になっても、早めに修復すれば何とかかんとか、作品は出来上がる。反対に、途中でやりかけの作品をつぶしてしまうと、土の中に空気が入ってしまい、その土は練り直さないと使えなくなる。
去年の陶芸教室では、せっかく出来上がりかけた作品を突然自分で壊してしまう子どもが数人出た。やりかけのゲームをあっさりリセットして新しいゲームを始めるように、一時間掛けて拵えた作品を気に入らないからといってあっさりぐしゃっとつぶしてしまう、そのこだわりの無さが何となく不安な感じがしたのだった。
「気に入らないからといって、ぐしゃっとつぶしてはダメですよ。何とか助けてあげるからつぶす前に呼んでね。」と念を押しておいたおかげで、昨年ほどは「新しい土でやり直し」という子は出なかった。

その代わりに気になったのは、「壊せない子」。
丸い塊りから少し縁を広げていくと、途中で小さなお碗型になる。
その段階ではまだまだ生地も厚く、大きさも足りないので、そこから更に縁を立ち上げる作業がいるのだが、中にはそこまで出来たところで「もうこれで完成!」と言って作業をやめてしまう子がいる。
「もう少し大きくしたら?」「もっと薄くしても大丈夫だよ」と何度も言うのだが、「これでいい」と早々に切り上げてしまう。それも自分の作った形に満足してというよりは、出来上がった形にそれ以上手を加えてゆがんだり失敗したりするのを怖がっているような感じなのだ。
もともと、女の子達はこじんまりきれいに作って大きな失敗なく仕上げようとする傾向にあるようだけれど、今回は男の子の中にもそれが目だった。
確かに出来上がった形はこじんまりまとまって小奇麗なのだけれど、抹茶茶盌としての大きさもたりないし、面白みがない。門をくぐる前にピョコリと頭を下げてそのまま帰ってきてしまうような、中途半端なお行儀のよさが歯がゆく物足りなく感じてしまうのだ。

私自身は、子どもの作品としてはニッチもサッチも行かないくらい壊れる寸前の作品の方が元気があって好き。
幸か不幸か、本日の我が家の息子の作品はまさにそれ。
今までに何度もお茶わんは作ったことがあって、本当ならもっとまとまったきれいな作品が作れるはずなのに、今日はクラスメートの横槍と父母が講師というプレッシャーのせいか、出来は散々。
「なんか、うまくいかへんかったわぁ」と少々落ち込み気味のゲンだったが、それはそれで良し。今日の日のゲンの高ぶる気持ちがそのまま作品に表れていったのだろう。

「物を作る」という事は、ある意味では今あるものの形を「壊す」という事につながっている。
失敗を恐れて手を加えるのをやめれば、作品はそこにある形より先へ進む事は無い。ある程度のリスクは承知で更に手を加える勇気、もう一度壊して作り上げる決断が必要となる。
失敗する前にブレーキを掛けて、無難なところで手を打っておく。そういう器用さはもっと大きくなって、何度も失敗を経験したあとで覚えればいい事。
そんな事を思う。


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