月の輪通信 日々の想い
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2005年11月28日(月) 吊橋

個展前のプレッシャーと新作のアイディアに行き詰ると、父さんは決まって外へ出かけたがる。
年末仕事のストレスと年明け早々に開かれる作品展の制作に追われて夜なべ仕事の続くこのごろ。「そろそろ来るかな」と思っていたら案の定、もぞもぞと「お出かけモード」になってきたらしい。朝からなんとなくそわそわして落ち着かなくて、しきりに何か考え込んでいる様子だったが、子どもたちが登校していなくなると、「今日、ひま?」とデートとのお誘い。
近所のハイキングコースまで出かけていって、陶額のデザインのために紅葉の写真を撮ってきたいのだという。紅葉なら自宅の周りでもいくらでも見られそうなものなのにと苦笑しつつ、お付き合いで出かけることにする。

目的地は「ほしだ園地」の星のブランコ。7,8年前に作られた大吊橋だ。
車で行けばほんの5,6分でいけるのに、最近ではなかなか訪れることのなかった場所。この前来たときには確かおんぶ紐でアプコを背負っていたような気がする。あのころは小さい子どもの手を引いたり、おんぶ紐やベビーカーでよく山に登った。若かったんだなぁ。
今では子どもというお荷物は少し軽くなったが、かわりに加齢というお荷物が少しづつ重くなってくる。かなわんなぁ。

そういえば、子どもたち抜きで二人で山に入るのも本当にひさしぶり。もしかしたら新婚の頃以来か。
紅葉した落ち葉に散り敷く小道をざくざくと踏みしめて父さんと歩く。平日のおかげで他のハイカーも少なくて、ちょっと木立の中へはいるだけでしんとした冷たい森の気配を感じることができて気持ちがいい。
晴天の吊橋は眺めもよく、眼下に見る紅葉が美しかった。木々の梢を真上から見下ろす意外さが楽しくて、何度も橋上に立ち止まって指差す。父さんも何度も一眼レフのシャッターを押した。

ところで、いつも街中での買い物や雑踏では、あちこちに立ち止まったり寄り道したりする父さんを後ろに、ともすると私のほうが先にたってさっさか歩いていることも多い。
それがたまの山歩きとなると、いつの間にか父さんのほうが先にたって歩くことが多くなるのは何故なんだろう。
新婚の頃、二人でよく近所の山歩きを楽しんだものだが、そのときも必ず父さんは私のすぐ前に立ち、時々後ろを振り返って私の歩調を確かめながらずんずん先を歩いていったものだった。その頃の名残だろうか。
今でこそ、いっぱしの母、いっぱしの妻の顔をしてのっしのっしと胸を張って先を急ぐ私だけれど、あの頃、十歳違いの夫の背中はいつもいつも必死の思いで追いかけていく先行者の後姿だった。
そんなことを思い出すと、昔のように父さんの背中を追って歩く山道がいつになく新鮮で、うれしくなる。
年齢を重ねると、夫婦は向かい合って生きるより、二人して同じ方向を見ながら並んで生きていくのがいいと聞いた。
我が家では再び、私が父さんの背中を見ながら追って歩く、そういう老いの日を歩いていくのもいいのかもしれないと思ったりする。


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