月の輪通信 日々の想い
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夜なべ仕事をおえて、寝酒にちょっと一杯と台所に立った父さん、酒の肴を探して、冷蔵庫やら食品庫をごそごそ開ける。結局めぼしいものが見つからなくて、「ああ、そうそう。」と、どこからか小さなジップバックにいっぱい入った銀杏の実を持ち出してきた。 ご近所の方からいただいたのだという。 アプコがいつも帰り道に、「もみじは赤、イチョウは黄色。ちょうちょみたいできれいねぇ。」と花束のようにして落ち葉を集めてくるあのイチョウの木の実だ。
「これって、どうやって食べたらいいのかな」と父さんが聞くので、去年七宝の先生から教えていただいた取って置きの銀杏の調理法を教える。 ハトロン紙のいらない封筒に食べたいだけの銀杏をコロコロと入れて軽く折って封をし、電子レンジで様子を見ながら暖める。 まもなくぽん、ぽん、と音がして、銀杏の硬い殻が割れて熱々の実が飛び出してくる。 「封筒の中の様子が見えないから、最初に銀杏の数を数えておいて、『ぽん』ていう音を数えると良いよ」と受け売りの知識を付け加えると、父さんは本当に封筒の中の銀杏の数を数えてからレンジのスイッチを押し、子どものように「ひとつ、ふたつ・・・」と銀杏のはじける音を声に出して数えている。 私は父さんのこういうところが好き。
このところ朝晩が急に寒くなった。 「冬中半そでで頑張る」と言い張っていたアプコも、家族ぐるみの説得誘惑工作に負けて、数日前から長袖Tシャツを着る様になった。 父さんの夜なべ仕事もとうに年末態勢。 お夜食や寝酒の出番も増える事だろう。 熱々の銀杏はつやつやと光って、口にするとほんのりほろ苦い。
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