月の輪通信 日々の想い
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2005年10月22日(土) 「よろしくおねがいします」

オニイは受験生。
よって、保護者である私は公立高校の学校説明会に行く。
降りた事のない駅の行ったことのない高校の体育館。
ネットで学校の所在地を調べ、家からの所要時間を計算する。
私は自分で行ったことのないはじめての場所へ行くのが嫌いだ。遅刻しないようにと早めに出かけると、予定の到着時間より30分も早くついてしまってかっこ悪かったり、なんでもない路地で道を間違えて大汗かいて目的地へ駆け込む羽目になったりする。
幸い、今度行く学校は最寄り駅から一本道だし、迷いようのないほど詳細な地図もHPに掲載されていたから大丈夫と思いつつ、念のため地図をプリントアウトする。
これ一枚あるだけで、もう、目的の場所についてしまったような安心感があるからだ。

朝、私より先に剣道の稽古に出かけるオニイに、
「じゃ、公立高校の説明会、行かせていただきますよ。」と声をかけたら、
「ハイ、いってらっしゃい」といわれた。
おい、こら、まて!
「行ってらっしゃい」ではないだろう!
首根っこを捕まえるかのような勢いに、びびったオニイが慌てて言い直す。
「あ、ごめん!ありがとうございます!」
「それも違う!こういうときの正しいお答えは『よろしくお願いします』でしょう?一体誰のための学校説明会なのよ!」
「ああ、そうでした、そうでした。ごめんなさい。よろしくお願いします。」
さらに慌てて言い直すオニイに、こんこんとお説教。

大体、この説明会の案内の書類自体、ちゃんと持ってこなかったわねぇ。
本当なら、こういうものをもらってきたら、自分の調べてきてほしい学校の名前くらいメモをして、これこれの説明会があるので、お母さん、行ってきてくれませんかと頼みに来るのが筋じゃないの。
会場までの道のりだって、何でアタシが自分で調べて探さなくてはいけないの?君が事前に調べておいて、「ちょっと遠いけどお願いします」と地図を添えて持ってきてもいいんじゃないの?
いったい、誰のための高校受験なのよ。
行きたい高校があるんなら、自分で積極的に調べて、自分で入る努力をするものではないの?
親や先生が適当に入れそうなところを選んでくれるわとでも思っているの?
そんな事だから、お母さんが説明会に行くと言ってるのに、のうのうと「行ってらっしゃい」なんていうのよ。
馬鹿者!
みるみるペシャンコにひしゃげていくオニイ。
ほらみろ、君はまだ屁理屈では母に勝てない。

進路を巡って、本人の希望する学校と現在の学力と我が家の経済的条件と通学に掛かる時間の折り合いがつかない。
「頑張ります」「今度こそは」と事あるごとに気合を入れる近頃のオニイだが、まだまだ、勢いだけが空回りしている感じがして歯がゆい。
堅実派のオニイは、そこそこ努力はするけれど、手の届かない目標に向かってとりあえずがむしゃらに手を伸ばして飛び上がってみるとか、荒唐無稽な目標を豪語して虚勢を張ることをしない。家族や周囲の人の期待しているものとか、自らの現在の実力とか、今の自分の立ち位置を頑固に固持したまま、自らの未来を思い描く。
そんなオニイの未来観に何となく物足りないものを感じたりもする。素直で家族思い、真面目で堅実なオニイに、ときには破天荒な大志や大胆な冒険精神を求めるのは、単なるないものねだりに過ぎないのだろうか。

初めての場所へ出かけていくときには、地図を調べ、時刻表を調べ、十分すぎるほど余分の時間を見越して出かけていく母。
手の届く範囲の目標に甘んじて、決して無理をしないように見えるオニイの慎重さを歯がゆく思いながら、そんな風にオニイを育ててきたのもまた、まぎれもなく私や父さんのこれまでの子育ての結果であるという事実。
なんだか少し凹む。


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