月の輪通信 日々の想い
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2005年10月20日(木) ブランコ

昼過ぎ、ウォーキングを兼ねてアプコを迎えに行く。
いつも授業が終わると時間通りにそろって帰ってきていた一年生も、2学期になって下校の時間がまちまちになって、近頃は学校近くの曲がり角でアプコの帰りを待つ時間が長くなった。
校門を出て、友達とふざけたりよそんちの飼い犬と遊んだりジャンケンしたりしながら下校してくる子ども達はなんだかとても楽しそうだ。男の子も女の子も入り混じって、突然鬼ごっこが始まったり、大きな声で歌を歌ったり、毎日が遠足のようなにぎやかさだ。
小学校時代って、いいなぁと思う。
なんてことのない毎日だけど、きっと楽しい予感やワクワクがいっぱいあるんだろう。

「おかあさぁ〜ん!」
アプコが大きな声で呼びながら走ってくる。ランドセルがバッコバッコと踊っている。
「あのね、あのね、すごいねんで。」
と、息せき切ってお喋りを始める。
「あのね、Hちゃんがね、今日始めてブランコに乗れてん!あたしがずーっと教えてあげたん。」
Hちゃんはアプコのクラスにいる軽度の自閉症の女の子.
アプコは入学当初から何かとHちゃんが気にかかっていて、いつも一緒に遊んだり、Hちゃんの苦手な事を手伝ったりしているらしい。
最近はアプコの会話の中であまりHちゃんの名前を聞かなかったので、別の子と遊んでいるのかなと思っていたけれど、そうでもなかったんだな。

「あのね、Hちゃんは今までブランコは手で押すだけでのれなかったん。
でもね、今日、『ここに座って』って何回も言ったら、座って乗れたんよ。
Hちゃんと一緒にブランコできてたのしかったぁ。」
本当に嬉しそうなアプコ。
ちょっと前までアプコ自身もブランコの立ち乗りができなくて、アユ姉に根気良く教えてもらってようやく立ってぶらんこをこぐ事が出来るようになったばかり。きっとアユコの懇切丁寧な口ぶりを真似て、Hちゃんにブランコの乗り方を熱心に教えていたのだろう。
Hちゃんが怖がらずにブランコに乗れるようになったことを、「たのしかったぁ。」と我が事のように喜ぶ事の出来るアプコは天真爛漫。
いいなぁと思う。

4人兄弟の末っ子アプコの周りには、何かとすぐに手を貸してくれるおにいちゃんおねえちゃんがいつもいる。
登校するときはゲンにいちゃんが「はやくしろよー」と足踏みして待っていてくれるし、お祭りの付き添いは中学生の大きい兄ちゃんが照れくさそうに付き合ってくれる。ひらがなの書き順もその日の洋服のコーディネートもみんなアユ姉に教わった。
みんなに教えてもらったり、手伝ってもらったりする事が当たり前の末っ子姫は、甘えん坊で依存心の強い子どもに育つのではないかと心配した事もあるけれど、必ずしもそうとは限らないのだなぁということが最近になってよく分かる
誰かに優しく教えてもらって何かができたという嬉しさは、今度は自分が誰かに教えてあげたいといういたわりの気持ちになる。
誰かに助けてもらって助かったという嬉しさは、今度は誰かを手伝ってあげようという優しい気持ちになる。
誰かから十分に与えられたやさしさは、決して本人を甘やかしたりわがままに育てたりするだけの物ではないのだなぁ。
「Hちゃんと一緒にブランコに乗れて楽しい。」というアプコの素直な喜び方は、決して「障害のある人には親切に」という妙な義務感や嫌な使命感をちっとも含まない純粋な嬉しい気持ち。
そういう気持ちを素直に何気なく口に出来るアプコの無邪気さがいい。


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