月の輪通信 日々の想い
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中学校、創立記念日でお休み。 父さんは旅行中だし、オニイも朝から友だちと出かけるという。 これ幸いとアユコと二人、街へショッピングに出かける。 ついこの間まで、お買い物に行っても「別にほしいものないよ。」「歩くのくたびれたぁ」とあまり乗り気でなかったアユコも、洋服や雑貨など女の子らしい買い物の楽しみを覚えて、尻尾を振ってついてくるようになった。 今日は特別に買わなければならないものの予定もなくて、いつも足手まといのアプコも居ないので、ゆっくりとアユコのペースにあわせて広いショッピングセンターを歩き回る。
近所にはない大きな本屋。 かわいらしい雑貨や食器の並ぶ均一ショップ。 アユコ好みのボーイッシュな服の並ぶウィンドウ。 「あ、これ、可愛い!」 「これ、ちょっといいね。」 と指差して笑うだけで、ことさらおねだりするでもなく嬉々として渡り歩くアユコ。 何かを買ってもらうというよりは、他の兄弟たちと一緒ではなく、母と二人で街を歩く事自体を喜んでくれているのがよくわかる。そのアユコのはしゃぎぶりが、母にとってもほのぼのと嬉しくて、「娘を産んでホントに良かったなぁ。」と心が躍る。
遠慮深いアユコが最初にねだったのは、とりどりのキャンデーやチョコレートの並ぶ駄菓子やさんの福袋とレジの近くにおいてある糸ひき飴。 もうとっくに籤つき飴なんか卒業のはずのアユコが赤いいちご味の飴を引き当てて、ニコニコと笑う。 「ねぇねぇ、今、食べてもいいかなぁ。」 「ええ?口から糸垂らしたまんまで歩くのぉ?」 「いいじゃん、いいじゃん」 大きな飴玉を口に含んで、もごもごしながら歩き始める。
これがアプコと一緒なら、アユコはきっとお姉さんぶって、糸ひき飴をくわえたまんまで街を歩くなんてことはしなかっただろう。 そういえばアユコは私と二人で買い物に出たときには、よく甘いお菓子をねだる。棒つきのキャンデーとか、きれいな色のついたアイスとか、外国製の三角のチョコレートとか。 しっかり者のアユコの中に確かに残る甘えんぼの気持ち。お姉ちゃんでも長女でもない、「たった一人の私」を楽しんでいるのだなぁ。 そういう幼さがまだまだ愛しいアユコである。
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