月の輪通信 日々の想い
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朝、いつものスーパーに出かけて、福引をひいたら、3等2000円の買い物券が当たった。 「あららー。おめでとうございます!」とカランカランと鐘を鳴らしてもらった。鐘が鳴るほどのあたりを引き当てるのはひさしぶりだったので気をよくしていたら、隣でくじを引いたおばさんが、2等5000円の買い物券を引き当てた。 「まあ、続きで大当たり!」と、係りの人がもう一回、さっきより派手に鐘を鳴らした。 せっかく、3等賞をあてたのに、なんだかちょっと損をしたような気分になった。 なんでかな。 買い物券でいつもよりちょっと上等の牛肉を2000円分、バンと奮発して気を取り直して帰ってきた。
いつも大盛り野菜が大安売りの八百屋さんのレジに並んだ。 朝、まだ早い時間なのに随分レジが混んでるなぁと思っていたら、新人のアルバイトの女の子がモタモタとレジを打っている。 レジ待ちの列が長くなったのを見かねて、品出しをしていたベテランのおばさんが隣のレジに立った。 「さぁ!隣のレジがなんやら元気ないから、こっちは大きい声だしていこか!」と、お客さんに大きな声で話しかけながらテキパキと商品をさばき始めた。 「ちゃんと、声、出していかなあかんで!若いんやから!」とレジを打ちながら隣の新人さんに小言を言う。生真面目そうな女の子がきゅっと小さくなって、振り絞るような声で返事をした。 「若いから恥ずかしいんやねぇ」といらぬ助け舟を出したら、 「恥ずかしい言うてたら、仕事にならへんがな。遊びに来てるンちゃうネンから」と、今度は私がおばさんに叱られてしまった。
いつもここの八百屋さんでは、店員さんが皆元気のいい声でお客さんと冗談を飛ばしたり、レジの値段を読み上げたりして、商売をしている。いつもよく見かける茶髪の若いアルバイトのお姉さんは、さっき小言を言ったベテランのおばさんとも掛け合い漫才のような軽快なお喋りでお客を笑わせたりして、にぎやかに立ち働いている。 確かにそういうお店の雰囲気の中では、いっぱいいっぱいの緊張で生真面目に手元ばかりを見つめてレジを打つ新人さんはやっぱり思いっきり浮いている。 多分、教室でならきちんとノートを取り、急に先生に指されてもソツのない回答ができ、決して校則違反もしそうにない生真面目なお嬢さん。その分、なれぬ仕事に恥ずかしさが先にたって、「いらっしゃい!」の声が上げられないのだろう。 自然な振る舞いのままでベテランおばさんと丁々発止のやり取りの出来る茶髪のお姉さんと違って、普段の自分の殻を破って大きな声を出すには、随分エネルギーが必要なのだろう。
「恥ずかしいゆうてたら、仕事にならへんがな。」 ベテランおばさんのお説教は、乱暴なようだが金の教え。 仕事というものの基本的な厳しさを端的に突いている。 ちょっとおしゃれなアルバイトや、「やりがい」とか「自分の能力を生かせる仕事」とかなんとなくかっこいい感じのする職業では、なかなか面と向かってこういう基本的な仕事のルールを教えてもらうことはできない。 こういう厳しさを苦もなく克服して楽しげに立ち働く茶髪のお姉さんと、振り絞るような声で「いらっしゃい!」を練習する新人さん。 学校や塾では優等生であるはずの女の子も、八百屋さんの店先では厳しいダメ出しを喰らう。 面白いなぁと思う。 人間が豊かに生きていくための力としては、どちらの優等生が必要なんだろうかなぁ。
「ほんとにねぇ。そのとおり。」 新人さんに厳しいお説教をするおばさんに媚びるように、相槌を打ちながら小銭を払う。 「いつもありがとね!」 威勢のよい声で、送り出してくれるおばさんのレジは確かに活気があって気持ちがいい。 ペシャンコに凹んで、泣きそうな顔でレジうちを続ける新人さん。 果てさて、このバイト、長続きするのかな。
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