月の輪通信 日々の想い
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暴風警報は出なかった。 「もしかして学校、お休みかも・・・」と不埒な期待をしていた子ども達も、がっぽがっぽと長靴を履いて登校していき、気まぐれに降るシャワーのような通り雨を浴びながらもこの夏最後のプールにも入り、蒸し暑い晴天の元、下校してきた。 風で落下して砕けた木の枝や青いまま吹き飛ばされた未熟な柿の実をピョンピョン避けながら、アプコが坂道を登ってくる。 プールバックと雨傘をうるさそうに肩に担いで、なんだかとっても楽しそうだ。 迎えに出た私の姿を遠くから見つけると、ランドセルをバクバク言わせながら走ってきて、「お母さん、みてみて!」と手にしたビニール袋をブンと突き出す。
「あのね、泥んこでね、泥だんご作ってん。 さらさらの砂で何べんもまあるくしたから、硬くって、つやつやして、こんなにきれい!」 見ると本当にきれいな球形に作られたピンポン玉大の泥だんご。 「あのね、泥んこのたまに乾いたさらさらの土をかけて転がしてね・・・」 と新しく聞き覚えた泥だんごの製造方法を熱心に母に語る。 「あたしのが一番まん丸にうまくできたよ。○○ちゃんのより△△ちゃんのよりアタシのが一番ツヤツヤにできたの・・・。ほらちょっとだけ、触ってみてもいいよ。」
ああ、いいなぁ。 泥だんごに熱中する年令の子どもがまだ身の回りにいつもいるという事。 ワクワクする楽しい気持ちを、一番に母に伝えずにはいられないアプコの幼さ。 「えーっとな、えーっとな。」といいながら、友だちから伝授された泥だんごの秘密の製法を教えたくて仕方がないアプコの素直さ。 オニイが受験生になり、アユコが思春期の気難しいお年頃になり、ゲンが母の知らない科学キットに夢中になる少年に育っても、まだまだ我が家には泥だんごと水遊びと棒つきキャンデーが似合う幼いアプコがいる。
泥だんごの楽しさは、泥んこの塊りが自分の手の中で転がし、磨き、また転がしているうちに、だんだん只の泥んことは思えない、硬くてつやつやした玉に育っていくその過程にある。 今、私の手の中でコロコロと甘えて転がってくれるアプコという泥んこは、どんな宝玉に育っていくのだろう。
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