月の輪通信 日々の想い
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2005年09月01日(木) 散歩係

新学期が始まった。
「宿題全部持った?上靴は?通知表、判押した?」
慌しい朝がまた始まる。
そして、子ども達が散って行った後のつかの間の静寂。
ようやく戻ってきた主婦の時間。
ああ、めでたい。

最近、ゲンの仕事が一つ増えた。
おじいちゃんちの愛犬コロの散歩。
普段はおじいちゃんが朝夕欠かさず散歩に連れて出ておられるのだけれど、実は先月の半ばから急な病気で一二週間の入院ということになり、コロの散歩係が必要になったのだ。
兄弟の中でも一番コロの扱いに慣れていて、日頃から工作や飛行機作りの知恵を借りたりしておじいちゃんに一番お世話になっているゲンを名誉あるコロの散歩係を任命する。
ちょっとだけ「参ったな」という顔をしながらも、むげに嫌とも言わず、「行ってくるわ。」と引き受けてくれたゲン。
夏休みの10日あまり、朝夕欠かさずコロの散歩と排泄物の始末、えさやりなどを続けてきた。

「悪いなぁ、よろしく頼むよ。」と懇願されて引き受けた仕事も、何日か続けると当たり前の役割のようになってしまって、嫌になってしまうことがある。
周囲の者も、初めは「ごめんな、悪いな。」と感謝していたのに、慣れてしまうとやってくれて当たり前というようなぞんざいな態度をとってしまう事もある。
散歩の時間が遅れると「今日はもう、散歩、行ったの?」とか、「まだ行ってないの?」とオニイやオネエに指摘される。
散歩が終わったはずなのにコロの鳴き声が聞こえたりすると、母が「散歩が足りなかったんじゃないの?」と注意する。
しまいには年下のアプコや従妹のHちゃんにまで「コロちゃんの散歩は?」と偉そうにいわれて、プリプリ怒り狂うこともあった。
「日頃お世話になっているおじいちゃんのために・・・」と快く散歩係を引き受けたゲンも時折嫌になってしまうこともあったようだ。

新学期になると、登校前に朝の散歩を済ませるためには、いつもより早起きが必要になる。夏休みのお寝坊に慣れた体に、皆より30分早い起床は厳しい。
それでもなんとか今朝は、新学期初日の朝の散歩を終わらせて、帰ってくるなり、「おかあさん、あのな、コロ連れて歩いていたら、知らない人に『えらいな』と褒めてもらったよ」とゲンが嬉しそうに教えてくれた。「早起きは三文の得だねぇ」と喜んでいたら、ちょうど朝の仕事から帰った父さんが「コロの散歩、どうした?」と不用意に訊いた。
せっかくの嬉しい気持ちに水を差されて、ゲン、悔しい顔をする。
あ〜あ、タイミングの悪いこと。

善意で引き受けた仕事なら、周りからどんな風に言われても最後までいやな顔をせずに機嫌よく役割を果たしてもらいたいとも思う。
けれどもその一方で、ほかの兄弟たちには、自分たちを代表して役割を受け持ってくれたものに対するねぎらいや感謝の気持ちを忘れないでいてほしいとも思う。
ぷいと拗ねた顔のまま、あわただしく登校して行ったゲンを見送ったあとで、のこったオニイとアユコにお説教。
「せっかくゲンが気持ちよく散歩係を引き受けてくれたのだから、ちゃんとそれに対する感謝の気持ちやねぎらいの言葉を忘れないようにしてやろうよ。ゲンは彼なりによく頑張ってるんだよ」
それは直ちに、「ゲン、コロちゃんの散歩、まだ?」と当たり前のように催促するようになってしまった私自身への戒めの言葉。


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