月の輪通信 日々の想い
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夏休みもあと数日というのに、怪しげな空模様。 生徒会の招集日で自転車で登校して行くアユコ、出掛けに自転車のタイヤに空気を入れながら「雨降ったらやだな。」と浮かない顔。 この夏、我が家の子ども達はよく、雨に降られた。 突然の夕立とか、思いがけない天気雨が格別多かったのだろうか。 その中でもアユコは特別当たりが悪い。 自転車でたまたま遠くの図書館へ出かけていて、帰りにびしょぬれになったり、友だちと待ち合わせして楽しみにしていたお祭りへ向かう道中にひどい集中豪雨にあって、雨宿りした駅で足止めを喰ったり。 「アタシが自転車で出かけると、必ず雨が降る。」と、グチグチとくさるアユコ。 うんうん、確かに今年の君は立派な雨女だ。
中学生になって自転車通学が始まってから、アユコの行動範囲はぐんと広がった。これまで、必ず車の送り迎えが要った図書館や習字の稽古のほかにも、遠くのショッピングセンターや大きい図書館、友だちの家、大きなお祭りのある神社など、それまで「一人では行っちゃ駄目」だった所にも足を伸ばす事が増えた。 市街地からちょっと離れた所にある我が家から、外の世界に出て行こうとするときには、子ども達にとって自転車は恰好の交通手段。坂道をギーコギーコと漕ぎつづける脚力さえあれば、今まで父母に連れて行ってもらうしか方法がなかった場所に、自分の好きな時間に好きなだけ出かけていくことが出来る。親の手元から離れて、一人で行動出来る楽しさにアユコは目下夢中である。
けれども、ひとたび雨が降れば、傘を差して自転車に乗るのがヘタクソなアユコは直ちに自由な足を失う。 出掛けに降られて、渋々傘を差して徒歩で出かけるのはまだいい。 出先で雨に降り込められたとなると、傘を差して自転車に乗る事もできないし、電話で迎えを頼むわけにも行かない。母の軽自動車にはアユコの自転車は積めないし、仕事中の父さんがいつでも大きい車で出動してくれるとも限らない。 雨宿りした軒先で、「もう、やむかなぁ。もうちょっと小降りになったら、濡れるの覚悟で突っ走っちゃおうかなぁ。」とあれこれ思い悩むアユコの困った顔が目に浮かぶ。
母の送迎の車の助けを借りずに、自分の自転車で好きなときに好きな場所へ出かけていく楽しさには、もしかしたら突然の雨に降り込められて行くか戻るかの思案を強いられる、そういうリスクも含まれている。 この夏のアユコは、何度も何度も雨に降られて、親の手を離れて一人で行動することの楽しさとしんどさを文字通り身に染みて感じた事だろう。 「お母さん、今日、降りそうかなぁ。」 出かける前にアユコは必ずその日の天気を訊くようになった。 「さあね、お母さんは予報士じゃないからわかんない。」 と、毎度毎度母は意地悪く繰り返す。 空模様を読むのも、雨に備えるのもあなたの「自由」のうち。 しっかり悩んで、濡れてきなさい。
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