月の輪通信 日々の想い
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午後からゲンとアプコを地域の集会所に送っていく。 子ども会で来週の市の夏祭りに出品する子どもみこしをこしらえるのだという。 昨年は、「えーっ、いくのぉーっ?」という感じで参加を敬遠していたゲンが珍しく自分から参加したいというのでアプコ番を兼ねて参加させる。 実際に行ってみると、集まってきているのは女の子たちが多くて、数少ない男の子たちも低学年の子たち。同学年の友達も居ないようなのでちょっとかわいそうかなと思ったけれど、本人はいたって平気らしい。子供会の役員さんたちの間に混じって、結構楽しく工作を楽しんできているようだ。 こういうゲンのこだわりのないマイペースぶりはなかなかいい。
今年のゲンは昨年に比べていろいろなことにかなり積極的だ。 これまで、苦手だな、面倒だなと思っていたこと、ちょっとだけ気後れして避けて通っていたことにも、「ちょっとやってみようかな。」と思い切って飛び込んでみる、そういう心意気というか、積極的な勢いが感じられる。 周りから自分が評価され、認められていると感じられることが、自信を持って新しいことに挑戦していく推進力になっているようだ。 そのてらいの無いまっすぐな一所懸命振りが気持ちいい。 この男、今が旬、輝いている盛りなのだなぁと思ったりする。
「ゲン、アプコを頼んだよ。なんかあったら、階下の公衆電話で電話かけといで。」 と、十円玉を数枚渡して帰る。 炎天下の山道を子供たちだけで歩かせたくないので、帰りのむかえを約束して帰ったのだけれど、なんだか思いがけなく早く終わったらしくて、ゲンとアプコが二人そろって、歩いて帰ってきた。 「電話、かければよかったのに・・・」 というと、 「あそこの公衆電話、こわれてたんだよ。」とか、「迎えに来るのも大変かなと思って・・・」とか、どうも歯切れの悪い答えが返ってくる。 ふぅん、そっか・・・と聞いていたんだけれど、忘れた頃になって、ゲンがポツリと呟いた。 「ねぇ、廻す電話ってどうやって掛けるの・・・」
廻す電話・・・。 あああっ!そうか。 会館の電話、旧式のダイヤルの電話なんだ! へ?もしかして、ゲン、ダイヤルの電話、掛けられないの? うん、だって、ほかで見たことないし・・・ そりゃそうだ。 ゲンが生まれた頃には、もう、世間の電話はほとんどがプッシュ式。 幼児が喜ぶ電話のおもちゃでさえ、電子音がピ、ポ、パとなるプッシュ式の電話ばかりだったじゃないか。
ダイヤルの廻したい数字の所に指を入れて、ゆっくりと廻す。 銀色のツメの所まで廻したら、指を離す。 ジーッとダイヤルが勝手にもとの位置に戻るのを待つ。 次の番号を廻す。 私たちが子どもの頃には、いたって当たり前だったダイヤル式電話の掛け方の手順をレクチャーしながら、ジーコ、ジーコとのんびり間延びしたダイヤルの戻る音を懐かしく思い出した。 ふーん、アレはもうゲンの世代の子ども達にとっては過去の遺物に成り果ててしまったのか。
それで、ゲンは電話が掛けられなかったのだ。 たかが公衆電話。 周りの大人に、「この電話、どうやって使うの?」とも言い出せなかったのだろう。 故障していたとかなんとか、電話が掛けられなかったことをあれこれ言い繕っておきながら、ちょっと時間が経つと、やっぱり「廻す電話」の使い方を母に問わずにいられなかったゲンのあふれる探究心。 これもまた、ちょっと可笑しくて、ちょっと可愛い。 いいよいいよ。 そのままで行け。
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