月の輪通信 日々の想い
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2005年07月26日(火) 羨望の眼差し

最近、父さんが朝食前に出かけていく。
いつもの工房での朝駆けの仕事ではなくて、ペットボトルのお茶を持ち、古いジョギングシューズを履いて、1,2時間。
どうやら近所の山を歩いているらしい。
先日、父さんは家に送られてきた旅行会社のパンフレットを眺めていて、突然、「来月、富士山に登ってくる。」と言い出した。
富士山は、これまでも父さんの作品製作のテーマの一つになっていて、遠景としては何度か取材に出かけて写真もたくさん撮っているのだが、実際に自分の足では登ったことがないということが、昔から気になっていたらしい。パンフレットには初心者向けの登山ツアーが載せられていて、これなら行けそうと判断したようだ。その日のうちに忙しい仕事の予定をやりくりして、お盆あとの2泊3日のコースを申し込み、ガイドブックまで買い込んで来た。
朝の登山はどうやら、その富士山登山に向けてのトレーニングで、日ごろの運動不足と筋力低下を促成栽培で解消しようと言う目論見らしい。
恐るべき行動力。
新しいことを始めるのが億劫で、つい始める前に躊躇してチャンスを逃してしまいがちな私には、まぶしいばかりの決断力だ。
見る前にとりあえず跳んでみる。
実現するために、一つ一つ小さなことから取り組んでいく。
その堅実な行動力が父さんの作品や生き方を支える一番太い柱なのだと私は思う。

「自分がやりたいこと、自分が欲しいものを手に入れるためには、ああいう決断力や行動力って大事だよね。」
私と同様、「逡巡派」のオニイに自戒を交えたお説教。
進路のこと、将来の仕事のことなど、物思う事の多いオニイには、未明からの一仕事を済ませて靴を履き替え、せかせかと山歩きに出かけていく父さんの後姿はどんな風に映っているのだろう。
思い立ったが吉日とばかり、ふいと新しい目標を見つけて歩き出す父さんを「あらまぁ、なにやってんだか・・・」と見送る私。
クワガタやカブトムシに熱中し、勝手に次々と飼育ケースを増やし、いつの間にか周りを巻き込んでいくゲンを、「ある意味、うらやましい奴だな。」といいながら見守っているオニイ。
私とオニイは、多分同じようなまぶしい目をして、誰かの「無鉄砲」を見上げている。
「私もいつか跳んでやる。」
「僕もいつか見つけてやる」
胸の中の深いところで、ふつふつと燃える小さい青い炎を抱きながら・・・。


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