月の輪通信 日々の想い
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数日前のこと。
小学校の個人懇談。 赤いランドセル姿もすっかり板について、毎日楽しげに登校していくアプコ。 体も気持ちも充実して、学校生活にも家での過ごし方にも「旬」の勢いのあるゲン。 二人とも、大きな心配事もなく、これといって先生に叱られてくるネタも思い浮かばない。ましてや、偏差値とか志望校とかいう言葉も出てくることのない小学校の個人懇談というのは、まことに心安らかに迎えられるものだ。
今年、ゲンの担任は、オニイが5,6年の時に担任していただいたT先生。 そして、アプコの担任は、アユコが2年生の時に担任していただいたM先生。 当然、どちらのお話の中でも、「オニイ君の時にはね・・・」とか「アユコちゃんだったらね」とか、兄弟で比較する話題がどちらからともなくでてくることが増える。ちょうど年齢的にもよく似たあたりで担任していただいているので共通する事柄も多く、どうしても引き合いに出して話す事が多いのだ。なんだか、途中からどの子の懇談をやってるんだか、わからなくなってしまうようなこともよくある。
理屈屋のオニイよりずっと人懐こく、気持ちがストレートに表に出るゲン。 生真面目でストイックなアユコと、甘えん坊でちょっとえー加減なアプコ。 親の目から見ると性格的にもかなり違って見える兄弟だけれど、ふとしたときにゲンの声は声変わり前のオニイの声にそっくりだし、おかっぱにしたアプコは低学年の頃のアユコに見た目はそっくり。おまけに着ている服まで、お下がりだから同じものだったりする。 先生たちにとっては、やっぱり入り口は「似てる」なんだろうなぁと思う
ゲンの担任のT先生は、さんざんオニイのときの思い出話やら、ゲンとオニイを比較しての話で大笑いしたあとで、 「でもね、ゲンちゃんにはお兄ちゃんと絡めての話題はあまり持ち出さないようにしているんですよ。」と教えてくださった。 4人兄弟の3番目。家族の中にいれば、どうしても誰かの弟、誰かの兄という立場に置かれてしまうゲンに、せめて教室の中ではゲン自身がゲンとして呼吸できる場所を確保していただいているのだなぁと有難かった。 ことに最近のゲンにとって、兄は面白い遊び相手であると同時に、いろいろな意味での「ライバル」でもある。隙あらば、オニイより高い所へ揚がってやろうと虎視眈々と狙っているような節も見える。 そんなゲンにとって、オニイの影を投影することなく、純粋にゲン自身を見つめて面白がってくださるT先生の存在は、ゲンにはとても居心地のよいものなのだろう。 近頃のゲンの絶好調ぶりは、そういうよき理解者の存在の賜物なのだなぁと思う。
一方、アプコの担任のM先生は開口一番、「アプコちゃんにはほんとにいろいろ手伝ってもらって、助かってますよ」と言われた。アプコが同じクラスの自閉症のHちゃんの面倒をよく見てくれるのだという。 「おねえちゃんもS君の面倒をよく見てくれてましたねぇ。アユコちゃんの小さい頃とよく似てますよ。」 ちょうど、アユコの時にも、クラスに軽い学習障害の男の子がいて、アユコが何かと手伝ったり、かばったりしていた。アユコと違って末っ子姫の甘えん坊のアプコに、Hちゃんのお世話係がホントにちゃんと務まっているのかどうか私には半信半疑なのだけれど、アプコは他のどの子よりもHちゃんの「扱い方がうまい」のだそうだ。 「口ぶりまでアユコちゃんそっくりで、しっかりしたもんです。」 といわれてようやく合点が行った。アプコは多分、自分がオネエに何かと面倒を見てもらっている、そのやり方をそっくり真似てHちゃんに接しているのだろう。だからその口ぶりまでアユ姉にそっくりなのだ。 M先生は入学当初から、アプコの上に幼い頃のアユコの印象を重ねて見ていらっしゃるように感じられるところがあって、「大丈夫かな、アプコにとって、アユコの影が重荷にならないかな。」と少し心配したりもしたのだけれど、結果としてアプコにはそれも杞憂に過ぎなかったらしい。 幼いアプコにとって、6つ違いのアユ姉は、絵を描くのもお料理するのも上手、いつも上手に遊んでくれて、母さんよりもずっときめ細かく面倒を見てくれる、いつでも頼りになる憧れの存在。 そのアユ姉に似ているといわれたら、それだけで舞い上がって嬉しくなって、お手伝いの一つでもしてやろうかという気になってしまう。 「一年生!」とひときわ胸を張って登校していくアプコには、「アユコちゃんそっくり」というM先生の言葉が、重荷ではなく心地よい励ましに思われるのかもしれない。 結果として、姉と同じような生真面目な優等生振りを期待するM先生の視線は、アプコにその実力以上に背伸びしたお姉さん振りを発揮させるエネルギーとなっているのだろう。
4人兄弟。 「あ、似てる、似てる」とすぐにいわれてしまう「そっくり兄弟」だけれど、母の目から見ればそれぞれ違う個性的な子ども達。 人から「似てる」と言われる,そのこと自体取ってみても、すぐに反発してしまう子もいれば、嬉しくて舞い上がってしまう子もいる。 今年はたまたま、その特性に合った先生がそれぞれの担任にあたってくださったということか。 これもまたラッキーというより他ない。
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