月の輪通信 日々の想い
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2005年06月29日(水) 驟雨

あちらで、「空梅雨で水不足」「ついに取水制限」と報じられているかと思えば、北のほうでは大雨、洪水のニュース。
いったいどうなっているんだろう。
当地はといえば、好天気続きの暑い日々。
「庭の水遣りが欠かせない季節になったなぁ」と言う程度だけれど、近隣の田畑ではそろそろ水不足の影響が出始めたか。

中学生組、期末試験初日。
夜更かしの睡眠不足で寝起きが悪く、むすっと脹れたまま登校していったアユコが、お昼前一番に帰ってきた。今度は「暑い暑い」とにぎやかなことだ。
「でも、なんだか、雲行きが怪しいよ。お布団干したけど、あんまり乾かなさそうだから取り込んじゃった。お洗濯物はどうしようかな。」
と話していて、
「でも、そうたくさんは降らないんじゃない?」とアユコが言ったとたん、ポツリポツリと大粒の雨粒が落ちてきて、あっという間にバケツをひっくり返したような豪雨になった。
「な、な、なに・・・・?」
まるでTVのバラエティ番組のコントのような突然の豪雨。
干し物を二人で大慌てで取り込んで、顔を見合わせて笑う。
乾ききった道路はあっという間に川になり、暑さでぐったりしていた植物が強い雨にたたきつけられて、ペションとうつむいてしまった。

「オニイ大丈夫かな。」
一息ついて、二人が同時に思いついたのはオニイのこと。アユコより1コマ分遅れて学校を出たはずのオニイ。ちょうど家への道のりの途中ではないだろうか。通学路にはほとんど雨宿りのできそうな場所もない。自転車だから仮にかさを持っていてもこの強い雨ではびしょぬれになってしまうだろう。
「玄関に雑巾とタオル用意しといたほうがいいかもね。」
用意周到なアユコは、甲斐甲斐しい若妻のように上がり口に雑巾タオルを敷き、バスタオルを用意する。母よりよほど、段取りがいい。
数十分後、案の定、オニイは「水も滴るいい男」となって帰ってきた。


「おかあさん、僕、今日はちょっと機嫌がいいねん。」
濡れた服を着替え、濡れた頭をゴシゴシ拭きながらオニイが言った。
「へへぇ、さては、テストが凄くうまくいったとか・・・?」
「ううん、違う違う。」
とへらへら笑って理由をなかなか教えてくれない。そのくせ、しつこく聞いて欲しそうな気配満々なので、重ねて聞くと、「しょうもないことやねんけどな」とこっそり教えてくれた。
自転車で学校を出た途端、ばあっとバケツをひっくり返したような雨になったので、鉄道の高架の下の歩道で雨宿りをしていたのだそうだ。
他にも中学生が何人かと、近所のおばちゃんらしい人が一人、一緒に雨が小降りになるのを待っていた。
他の子たちが一人二人と先に雨の中へ飛び出していった後、オニイとそのおばちゃんだけが高架下に残り、なんだか少しだけお喋りをしたのだと言う。
「べつにな、ただの世間話やねんけどな。最後に別れ際にな『気ィつけて帰りや』と声をかけてもろてん。」
「それで、きげんが良いの?」
「うん、それだけ。」
照れくさそうにオニイはその話題を打ち切ってしまった。

無愛想な男子中学生と雨宿りのおばさん。
どんな世間話の話題があった事やら・・。
若者が店員と一言も交わさずに買い物が出来るコンビニを好んだり、顔見知りの近所の人と挨拶を交わすことすら嫌ったりする事の多い昨今、雨宿りの短い時間のご縁のおばさんとのちょっとしたなんでもない会話で何となく楽しい気持ちになって帰ってきてしまうオニイ。
近頃いつも不機嫌そうな顔をしている屁理屈屋のオニイにも、ちゃんとそういう人懐っこいほのぼのした気持ちが根付いているのだなという事がわかって嬉しくなった。

そういえば、先日スーパーの駐車場を出るときのこと。
「暑いね」「参っちゃうよ」と顔見知りの警備員のおばさんと一言二言私が言葉を交わしているのを見て、後部座席のゲンが「なんかああいうのっていいよね。」といった。
知らない人と知らない人が行きかう一瞬に一言二言交わす会話。
それを「いいよね」といえる我が家の子どもたちの視線が嬉しい。
それは多分「人間が好き」という事。
そして多分、「生きてる事」が好きということ。


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