月の輪通信 日々の想い
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2005年06月27日(月) 怒りの収め方

父さんの個展、5日目。
土、日の山場を越え、さすがに毎日の百貨店出勤のお疲れが出てきた様子。あと数日。
ガンバレ、ガンバレ。

先週の金曜日、いつものように「遊びに行ってくるよ!」と自転車で飛び出していったゲンが、夕方帰宅したときにはなんだかプリプリ怒っていて、顔を見ると一触即発で泣き出してしまいそうな情けない顔をしている。
オニイと違って単純明快なゲンは、ご機嫌が悪いとき、とっても凹んだとき、凄く悲しい思いをしたとき、すぐに目の縁がウルウルと赤くなって唇がへの字に曲がる。
「どしたの?なんだか機嫌悪いね。なんかあったの?」と何度も訊ねたら、その日遊びに行った友だちとのケンカの顛末をポツリポツリと話してくれた。

「むっちゃ、腹たつネン!もう絶対あいつンちへは遊びに行かない。顔も見たくないわ!」
話していくうちに悔しさがますます増してきたようで、だんだんに声が大きくなってくる。
大人から見れば「なんだ、そんなこと・・・」と思うような些細な言葉。
「何もそこまで怒らなくても・・・と思うようなゲンの激昂。
それをストレートに吐き出す事で、悔しい気持ちのバランスを取り戻そうとしているんだな。
「言い返してやろうと思ったんだけど、悔しくなるといえなくなってしまうんや。それでますます悔しくなる。ぼくって滑舌が悪いからさ。」
ゲンは5年生になるが、どうも言葉の発音の不明瞭なところがある。ザ行ダ行がうまく言い分けられなかったり、気持ちが高ぶると言葉がつっかえたり・・・。普段は気にせずどんどんお喋りしているが、口げんかのときなどは人よりちょっと悔しい思いをする事も多いのだろう。
これまでゲンは、自分の発音のことを自分から話題にした事がなかったので、彼なりにコンプレックスを持っているのだということがわかって胸を衝かれる。
「いいたいことをポンポンと言い返せたらいいんやけど。むっちゃ腹立つわ!」と苛立つゲンに、「じゃぁ、ここで言いたかったこと全部言ってみ。まず『アホ!バカ!マヌケ!』からはじめよか。」
と、けしかける。
よっしゃーとニカッと笑ってゲンが悪口合戦を始める。
「サル!ゴリラ!チンパンジー!」
・・・なんかサル系ばっかりやな。O君は猿顔か?
「ダンゴ虫!毛虫!便所虫・・・」
・・・今度は虫シリーズか!
「わけのわからんこと言いやがって!あほー!糞ガキ!ぼけー!」
・・・もう終わりか?もっと強烈なのはないのンか?
「お前なんかなぁドブに落ちろ。一生あがって来ンな!ボウフラ!イトミミズ!屁こき虫!」
・・・・お、虫に戻ったか。
ゲンの悪口連呼は夕食後、剣道の稽古に向かう車中まで延々と続いた。

なぁ、ゲン、ここでいっぱいいっぱい悪口を言って気が晴れたらそれでいいよ。
でも、なんで○くんは今日、そんなにアンタを怒らせるようなことをしたんだろう。
「一緒に遊ぼう。」と君の事呼んだんでしょ?君だって「一緒に遊びたい!」って思って自転車で駆けつけて行ったじゃない。
何でいきなりそんなケンカになっちゃったのかなぁ。○くんにも、なにかイライラする事とか、腹が立つこととかあったのかなぁ。お母さんにはその事がちょっと腑に落ちないよ。
あとで気持ちが落ち着いたら、ちょっとだけかんがえてみ。明日もあさってもお休みだからさ。
そういって、道場に向かうゲンの背中を見送った。

今日、月曜日。
下校してきたゲンは、さっさと別の友だちの家に遊びに行った。
「それで、○君とはどうなったの?仲直りした?それとも、絶交のまま?」
夕食前、ゲンに再び聞いてみる。
「ぼくな、一応○君に謝ってみたんや。ボクは自分が悪かったとは思ってないけど、仲直りしたほうがいいかなと思って・・・。そしたら○くん、『もうええよ』と答えたんや。あいつの方が絶対悪かったのに、なんか立場が逆転したみたいでよけい腹が立った。」

自分が悪かったとは思っていないのに、「一応謝ってみる」というゲンの行動は意外だった。
ゲンの話を聞く限り、ケンカの発端は○くんの気まぐれか、何かほかの事の鬱憤晴らしだ。少なくともゲンの言った言葉や行動だけが原因ではないようだ。それなのに、「一応謝ってみる」というゲンの選択。
頑固で融通が利かないと思っていたゲンの思いがけない懐柔策にちょっとおどろいた。いつの間にかゲンも、ストレートに恨みをぶつけるのではない、ワンクッションおいた怒りの収め方を見つけることが出来るようになってきたのかもしれない。「余計腹が立った」といいながら、ゲンはそれを再び○くんに問い詰めるつもりもなさそうだ。
賢い人付き合いの要領をすこしづつ学んでいるのだなぁ。
5年生になってクラスの友達や先生にも恵まれ、大好きな虫取りや川遊びなど家で過ごす時間も充実している今のゲンだからこそ、「一応、謝ってみてやるか」と関係修復を図る余裕も生まれるのかもしれない。

「それよりさ、それよりさ・・・」
「余計、腹が立った」といいながら、ゲンはあっさりと○君の話題を切り上げて、今日の昆虫採集の段取りを始める。
夏の短い驟雨のように、あっさりと激しい怒りをやり過ごして次の楽しみに飛びついていく。
さっぱりしてなんだかいいなぁ。
ゲンってほんとにいい奴だ。


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