月の輪通信 日々の想い
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2005年06月17日(金) 秘密基地

山の緑が日ごとに勢いを増して、ワイワイと押し迫ってくる感じ。
この季節の植物の揚々とした成長振りは、みしみしと音を立てて進むようで、気持ちがよい。
わずか数ヶ月でワンサイズ、靴の寸法が変わる我が家の子ども達もちょうど山の緑と同じ季節を過ごしているのだろうか。
白いTシャツからニュウと突き出たアユコの腕。
妙な圧迫感で頭上から降って来るようになったオニイの野太い声。
グリグリと目を光らせて始終面白い事を探しているゲンの好奇心。
そして、小首をかしげ余白に小さな丸をいくつも書いて10までの足し算引き算と格闘しているアプコの宿題。
今月はやけに米櫃の米の消費のスピードが早い。
そして、毎日沸かす冷茶用のプーアル茶の消費量も・・・。

ゲンが最近しょっちゅう行方をくらます。
子ども達の帰宅が全員そろって「アイス食べるよ〜!」と呼んでも、夕飯前の慌しい時間「そろそろご飯だよ〜。手伝って〜!」と召集をかけても、ゲンだけが何故か声の届く範囲内にはいない。
時には、朝の支度で皆が右往左往する時間にさえ、とうに早起きしたはずのゲンの姿が見えない。
「また、”下”へ行ってるな。」
まったくねぇと外に向かってゲンを呼ぶ。
「はぁ〜い」と一階のベランダの床の下から、とぼけたゲンの返事が返ってくる。

我が家の庭は川沿いの斜面にあるので、ちょうど一階のベランダ下が半地下のようなスペースになっている。普段は私のガーデニング用品だとか古い自転車とかの物置小屋として使っているのだけれど、最近はその半分のスペースがいつの間にやらゲンに占領されはじめた。
今年の誕生日のお祝いにと買ってもらった「ダイオウクワガタ」のペア。
去年から持ち越しの正体不明の幼虫。
おじいちゃんちの茶室の縁の下から連れてきたアリジゴク。
お向かいのMさんが捕まえてくれた今年第一号のノコギリクワガタ。
ゲンの大事なペット達の飼育ケースがずらりと並ぶ。

クワガタに直射日光がいけないといえば、どこからか古いベニヤ板を探してきて日よけを作る。
アリジゴクの巣に水遣りの水滴がおちるといえば、壊れた水槽でドームを作る。
自分の部屋は足の踏み場もないほど散らかっているというのに、ベランダ下の秘密基地の床はきれいに掃き清められ、資材や買い置きの餌はふたつきのケースに丁寧に収めてある。
ここ数日は、クワガタムシの餌の昆虫ゼリーにアリがたかるといって大騒ぎをしていた。
飼育ケースの周りにサラサラの砂の土手をつくる人工アリジゴク作戦。
台所のアリ退治に使った駆除剤をせしめての「アリの巣コロリ」作戦。
そして、飼育ケースの周りに水を張ってのお堀水攻め作戦。
次から次へとアリ対策の妙案を考えては、そそくさと一人で作業にいそしむ。ほっぺたまで蚊に喰われ(飼育ケースのそばでは蚊取り線香も焚けないので)、手も足も泥だらけにして、愛しいクワちゃんたちをかいがいしくお世話する。
まだまだこれがゲンにとっての「夏」なんだなぁ。

ところで、ベランダ下の物置は本来、私にとっても唯一子ども達の喧騒を避けて一人になり、ガーデニングにいそしむ逃避ための場所だった。
いつの間にか、ゲンとそのペット達がやってきて、最近ではその利用時間は圧倒的にゲンの方が長くなっている。
たまに私がベランダ下へ降りていくと、「何しに来たの?」というようないぶかしげな顔で見上げるゲンとバッチリ目が合う。
ゲンにとっては、母の方がノックもなしに自分の秘密基地に下りてくる、うるさい闖入者に映るのだろう。
「庇を貸して母屋を取られる」というのは、こういう事を言う。


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