月の輪通信 日々の想い
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「おかあさん、これ、どのくらい切ればいいの?」 付け合せのキャベツを刻んでいるアユコが私に訊く。 自分で見当をつけて剥がしたキャベツが、もうちゃんと洗って籠にあげてあるというのに、その分量にいまいち自信がなくて、必ず母に念を押す。 「このブラウス、ちょっとだけしか着てないから、明日もう一回着ていいかな。」 お気に入りのブラウスをもう一日続けて着たくて、アユコが私に訊く。洗濯籠にいれずに丸めて自分の部屋へ持って上がればいいだけのことなのに、やっぱり母に一言たずねる。 自分で「これでいい」とか「こうしよう」とかだいたいの見当はついているくせに、いちいち母に確認を取るのはアユコの癖。 そこそこ器用で、なんだってやればできてしまう筈なのに、なんだかちょっと念押ししてみたくなる。そういう優柔不断は、アユコには内緒だけれど実は母譲り。
「さあね、知らないよ。自分で決断してね。」と答える母は意地が悪い。 「それでいいよ。」とか「こうしたほうがいいよ」とか、あと押しする言葉を言わない事にしようと決めた。 母が何にも言わなければ、アユコはしばらく逡巡して、そして自分で決断する。ちゃんと自分で決める力は持っているのだ。自分で決めたことをちゃんと最後までやる力も・・・。
今日、アユコは初めて一人で美容院へ行った。 プールの授業が始まる前の年中行事。冬の間、長く伸ばして束ねていた髪をばっさり惜しげなくカットして、ショートヘアに変身する。いつもなら母の美容院行きに便乗して、隣のいすに座って一緒にカットしてもらっていたのだけれど、もうそろそろ一人美容院デビューをしてもいい頃だろう。 「美容師さんにどんな風に髪型を説明していいんだか、わかんないよ。」 「前髪を短くして、変になったらどうしよう」 例によって、アユコは出かける前に散々悩む。 「ねえねえ、お母さん。なんていったらいいと思う? 肩より短くしたほうがいい? それとも髪ゴムで結えるくらい長めにしておいたほうがいい?」 いい加減母も面倒くさくなって、「何でもいいけど、早く行かないと雨降ってくるよ。自転車で行くんでしょ?」と思わずさっさと切り上げてしまう。 あ、しまった。 背中、おしちゃった。
思い切ったショートヘアをさらっと揺らして、アユコの自転車が軽快に帰ってきた。重たい束ね髪がなくなって、頭が小さくなったとアユ子が笑う。 白いTシャツには、さっぱりショートヘアがよく似合う。
「おかあさん、あたし、生徒会、立候補する事になったよ」 それはアユコが自分で決めたんだね。
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