月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
昨日の事。 夕方ゲンが一泊二日の宿泊学習から帰ってくる。 うちへ遊びに来ていたKちゃんを迎えにきたKちゃん母が、 「いま、小学校のほうで大型バスの音がしていたよ」 と教えてくれたので、 「わ、予定よりずいぶん早く着いたんだなぁ」と慌ててトッポで迎えに出た。 通学路の一本道では小学生の姿をみる事も無くて、あらら?と思っていたら、小学校には既に人っ子一人子どもが居ない。知り合いのお母さんが、 「もう、とっくに帰ったんだってさ。」と聞いてきてくれた。 一本道で、入れ違いになる事はないはずなのになぁと家へ急ぐと、途中の畑のところで近所のI さんのおじさんが飛び出してきて、大きく手を振っている。 「いやぁ、すんません。お兄ちゃんここに、いたはります。私が呼び止めてちょっと寄り道させてしまいました。」と言われる。 見ると、首からタオルを掛け、リュックを背負ったままのゲンが、ニコニコ笑って手を振っている。 「さっきお母さんの車が前を走っていかれるのが判ったんやけど、呼び止めるのが間に合わなくて・・・。実はね、ゆすら梅がたくさん実ってね、息子さんにちょっと食べてみんかと思って・・・」 畑の奥にある2本の木に真っ赤な小粒の実がたくさんなっている。実った枝を重そうにしなって、なんだかとっても美味しそうだ。 「うちのモンじゃ、とてもたべきれないんでね、よかったら摘みにきてくださいよ。さくらんぼほど甘くはないけど・・・」 既にゲンはナイロン袋を貰って、たくさん摘ませてもらっていたらしい。 「おかあさん、いいお土産ができたよ」 とへらへら得意そうに笑っている。 「あらら、それはそれはすみません。」 I さんにお礼を言って、ゲンを車に乗せる。 ゲンから貰ったゆすら梅は、本当によく熟したさくらんぼのような赤色で、食べると酸味の利いたさわやかな甘さが美味しかった。
で、今日の事。 父さんの車で I さんの畑の前を通りかかったら、今度は I さん、小さいお孫さんたちと一緒に畑仕事をしておられた。 「昨日はどうも。ゲンが珍しいもの頂きまして・・・」とお礼を言ったら、「やぁ、ちょっと車を停めて、皆で摘んでおいきなさいよ。」といってくださる。同乗していたアプコは大喜び。たまたま自転車で通りかかったアユコも便乗して摘ませていただく事にした。
I さんの話によると、その昔、戦争前には私市の駅の近くには大きなゆすら梅農園があったのだという。 季節になると、お客にカゴを持たせて自由に摘ませる観光農園のようなことをしていたのだそうだ。 戦争になって、食糧事情が悪くなったときに、いっぱいあったゆすら梅の樹は除けられて、畑にされてしまったけれど、その時抜いたゆすら梅のうちの2本が今もこの畑でたくさんの実を実らせているのだという。 「あの時は、村の旧家の何軒かが同じようにゆすら梅の木を貰って引き取ったんですよ。だから、きっと私市のあちこちにこれと同じ木がまだ残っている筈なんです。」 と I さんが教えてくれた。 今はぎっしりと住宅が立ち並ぶ駅前辺りの一体どこにゆすら梅農園があったのだろう。 由緒正しいゆすら梅の老木には、枝いっぱいに赤いルビーの粒がひしめくように実って、子ども達はナイロン袋に集めるのももどかしく、木から口に直接運んでは嬉しそうに笑う。 まだ2歳くらいの小さいほうのお孫さんが、種を取ってもらった果実を何度も何度もせがんで、口を尖らせる。 「この子、何ぼでも食べよるわ。」 と根気よく種を取っては孫の口元に運ぶ I さんもまた、なんだかとても嬉しそうだ。
実のなる木がうちにあるっていいなぁと思う。 その木の下に集って来る人がいるから。 うちの「猫の額」にもまた何か植えようかしらん。 日当たりがわるいもんだから、以前に植えたブルーべリーのようにビックリするくらいすっぱい果実が出来ても困るんだけどね。
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