月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
アプコのお友だちのKちゃんのお母さんから、大輪の透かし百合を貰った。 Kちゃん宅の庭で今朝最初のつぼみが開いたばかりだという。 がっしりと立派な花茎に10個近くのつぼみがついていて、切花にしても順々に開花していくそうだ。 「あらら、わるいわねぇ、ありがとう。でもせっかく咲いたばかりなのに、気前よく切ってくれちゃって、ホントにいいの?」 と聞くと、 「いいのいいの、庭に植えてても、家の者しか見ないし、花を切っても球根は残るからまた来年咲くしね。」という。
Kちゃん母の庭のポリシーはすっきりしている。 植えるのは四季咲きのバラと百合だけ。 たまにKちゃんむけにプランター植のいちご苗とか近所のおじさんが気まぐれにくれたかぼちゃ苗を居候させたりする事はあるが、そのほかの植物はほとんど植えない。地植のバラの肥料分を横取りするからといって、パンジーやペチュニアなどのポピュラーな草花も植えない。 バラが開花の時期を迎えると、余分のつぼみはどんどん摘心してしまい、残したつぼみが膨らみかけた所で、惜しげもなくパチンパチンと切ってしまって、近所の友だちや通りかかった知り合いに、「持って帰って」とあげてしまう。たくさんの種類をそろえた百合も、最初のつぼみがほころびかけると、パチンと切って「ほいよっ」と誰かに上げてしまう。 誠に気前がいい。 だから、Kちゃんちの庭自体にはいつもほとんど花の色が無い。 「ホントに貰っちゃっていいの?お庭が寂しくならない?」と何度も何度も聞くのだけれど、どうやら開花が始まったらパチンと惜しげなく切ってしまうのがKさんの庭作りの習性らしい。 長く開花させないほうが元の株や球根を疲弊させなくてよいのかもしれないけれど。
工房の茶道の稽古日になると、義母がパチンパチンと花バサミを鳴らしながら我が家の庭へ訪れる事がある。 「なんか、お茶花にいいお花、ないかしらん?」 茶室の掛け花入れに毎回飾っておく茶花は、ほんの数輪でよいのだけれど、洋花はダメだったり、茶室周りの目に付く所にある花はダメだったり、なかなか選択が難しい。特に庭に花が途切れる冬場などには結構茶花の調達には苦心をする。 たった一輪ようやく咲いたばかりの水仙とか、季節の終わりに咲き残った名残の小菊だとか、ちょっぴり愛しい思いでめでている花も義母の所望にあうと泣く泣く摘み取って献上しなくてはならないときがある。 実際、義母はあまり自分のうちの庭仕事には熱心ではない。季節の変わり目ごとに「なんか植える花を買いに行かなくっちゃねぇ。」と、玄関のからっぽのプランターを指して言われるけれど、差し迫って自分に買いに出かけようとはなさらない。他所から頂いた珍しい植物も、最初の花を見ると後は興味を失っているようだ。 宿根の植物も一年草も区別無く、花がなくなると雑草と一緒に抜いてしまったりするので、なかなか育たない。 どうやら義母の思う花壇とは、お茶花調達用の冷蔵庫のようなもので、花つきで買ってきた宿根草も、一回分のお茶花に花を切って使ったら、後の株には来年の花はあまり期待していないように思われる節がある。 それはそれ。 その人の庭作りの習性。
春の終わり頃から、パラパラといろいろな種類の花の苗を買った。 マリーゴールド6株、サルビア4株、トレニア5株、アメリカンブルー1株、フクシア1株、カンパニュラ2株、バーベナ4株、ブルーサルビア2株、ペチュニア3株、星咲きフロックス4株。 今年の春は種まきに失敗が多かったので、夏から秋に向かい、庭が寂しくなりそうな気配だったので、あちこちの園芸店で数株ずつ、自分の好きな定番の草花をいろいろ買い込んだ。 そのうちの半分以上は、園芸店の片隅で開花の盛りを過ぎたり、切り戻しをサボって徒長したりした「お買い得見切り品」だ。 私はこういう落ちこぼれ株を格安で買って帰って、挿し芽をして殖やしたり、結実を待って来年用の種子を取ったりするのが好きである。 新しい株を買うときにも、「こぼれ種でよく増える」とか、「挿し芽で殖やせる」とか「植えっぱなしでも毎年花をつける」とかそういうキャッチフレーズにめっぽう弱い。 庭の草引きに出ても、こぼれ種で発芽したビオラの幼株やランナーでやたらと増えるワイルドストロベリーの子株も、抜きかねて残してしまうので、なんともまとまりの無い雑然とした混植ガーデンが出来上がる。 誠に貧乏性のガーデニングである。
自分の好きな花、頂き物の株、どこからか紛れ込んできた名も知らぬ草花。 行き当たりばったりに植えた脈絡の無い花たちが奔放に生きている。 野放しの様相の我が家の花壇。 今年はどこぞやでみた花壇と雰囲気がにてきたぞ・・・とつらつら考えてみて思い出した。 私が小学生の頃、実家の母が社宅の庭で細々と楽しんでいた小さな花壇。 マリーゴールドもサルビアも、そして近頃ではあまり見かけなくなった星咲きフロックスも、あの頃どこの庭でもよく見かけたちょっと懐かしいにおいのする懐メロフラワーだ。 どうやら歳を食うと庭の好みも幼い頃を回帰しがちになるらしい。
|