月の輪通信 日々の想い
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朝早く、オニイが修学旅行に旅立った。2泊3日沖縄の旅。 パイナップルも大嫌い、アウトドアも苦手。暑さにはバテバテのオニイだけれど、友だちとワイワイ過ごす3日間はさぞかし楽しいことだろう。 どうやら沖縄の天候は3日ともあまりよくないようだけれど。
おんぼろトッポのワイパーの調子がよくない。 といっても、老朽化したゴムを新しいものと取り替えればいいだけなのはよくわかっている。 助手席側のゴムは少し前に交換したので、調子がいい。今度は運転席側のゴムが古くなって、水滴をぬぐっても微妙に視界に水滴が残る。かといって、今すぐ交換しないと不便というほどでもなくて、ついつい交換を伸ばしのばしにして現在に至っている。
「お母さん、これって微妙にイライラするね。」 久しぶりに助手席に乗ったアユコがフロントガラスを指差す。几帳面なアユコは片方だけ微妙に水滴の残る車窓が気になって仕方がないのだ。 ふと思いついてアユコにへんてこりんな謎をかける。 「ねぇ、アユコ、アンタはどっちのワイパーの気持ちが分かる? こつこつ一生懸命仕事をして自分の所はきれいにしているのに相棒のせいでなかなかきれいにならないと思っているそっちのワイパーと、自分なりに一生懸命やっているつもりなのにできのいい相棒の仕事と比べるといつも自分の方が見劣りしていると思っているこっち側のワイパーと。」 アユコはう〜んとかんがえていたけれど、 「どっちも分かる。両方かな。」 と当たり障りのない答えを返した。
ホントは、アユコは出来のいいワイパーのほうなんじゃないかな。 何でも一生懸命で、そこそこ器用だからたいていは人から褒められるような結果が出せて、自分のやった努力にはやった分だけの成果が感じられて・・・。 それだけで充分「出来がいい」娘なのだけれど、時々この子は一生懸命やってもなかなか結果が出せない人の痛みをあまりよく知らないんじゃないかなぁと思うことがある。 努力をしさえすればそれなりの結果は当然ついてくるものと思っていて、出来ないのはその人の努力不足のせいだと思い込む。 そういう一直線の真面目さが、他人のダメさを許容できない堅さになる。 もしそんな固い思い込みがアユコの中にあるのなら、どこかで柔らかく突き崩してやらなくてはと時々思う。
「お母さんっていう仕事はね、どっちもちゃんと分かってないと務まらない仕事だとつくづく思うわねぇ。 みんなと同じ努力をしているのにちゃんとできない子もいるし、言われなくても何でもちゃんと出来ちゃう子どもも居る。 どっちも自分の子どもだから、おんなじように大事に抱えていかなくちゃならないもんねぇ。」 今はまだ、アユコに本当に教えたいことを母の「自分への戒め」という形で謎をかけて伝えておく。 賢いアユコは母の謎かけの意味をいつの日かもう一度自分の中で問い返す事をしてくれるだろうか。 雨の日のおんぼろワイパーの中途半端な仕事振りを見たときに・・・。
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