月の輪通信 日々の想い
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2005年05月21日(土) 銀ちゃんアリとダンゴ虫

山の中に住んでいるせいか、いつまでも子どもの食べこぼしがなくならないせいか、この時期になると必ず家の中にアリが発生する。
「あちゃーっ、アリが出たよ」とあわてて食品庫のお菓子や調味料の密封を確認し、部屋のあちこちの食べこぼしやお菓子のかけらを一つ残らず掃除機で吸い込む。そそくさと蟻用の殺虫剤を買ってきて、蟻の侵入口とおぼしき床面にべたべたと並べ立てる。
毎年毎年のお決まりの大騒ぎ。

「あ、そのアリさん、殺したら駄目!」
一掃処分の残党の蟻を見つけて指先でつぶそうとしたら、アプコが慌てて止めに入った。
「そのアリさん、もしかしたら銀ちゃんアリかもしれないでしょ。」
去年、アプコが飼っていた金魚の銀ちゃんが死んで、庭の隅に埋めておいたら翌日アリがたくさんたかっていた。
「銀ちゃんは死んでしまったけれど、銀ちゃんの体を食べて今度はアリの赤ちゃんが生まれてくるのよ。」と教えたら、生まれてくるアリはきっと「銀ちゃんアリ」なのねとアプコは納得したようだった。
もうずいぶん前のことだから、すっかり忘れているだろうと思っていたら、はっきり覚えていたのでびっくりした。
「銀ちゃんを食べて生まれてきた銀ちゃんアリをつぶして殺してしまったら、銀ちゃんはどうなるの?」
かさねてアプコに問われて、テーブルの上に見つけたアリをぷちっとひねりつぶす事が出来なくなってしまった。
「う〜ん、どうなるんだろうね。よくわかんないからこのアリさんは外に逃がしてあげようね。」
命拾いした小さなアリをメモ用紙の端っこでそっとすくって、窓の外にピッと飛ばした。

その後、父さんとアプコと3人で買い物に出かけた。
車中で父さんにアプコの銀ちゃんアリの話を教えて、「ふぅん、アプコも小さいなりにいろんなことを考えているんだねぇ」と二人で笑う。
「不用意にアリ一匹もつぶせないね」と話をしながらスーパーに着いた。
駐車場で車から降りたアプコ、さっそく足下の地面に何かを見つけてしゃがみこむ。
「ダンゴ虫だぁ」
あらら、ほんとだ。こんな所に居たら車に轢かれちゃうねと言おうとしたら次の瞬間、いきなりアプコがブンとダンゴ虫を踏み潰した。

え?!
今さっき、「アリ一匹もつぶせないね」と言っていた父さんと私は突然のアプコの暴挙にしばし呆然。
「あ、つぶしちゃったのね・・・。」
「かわいそ・・・」
当のアプコは父母の驚愕に気づきもせずに、自分の靴裏をひっくり返して自分の踏み潰したダンゴ虫を確認している。
「だって、あたし、ダンゴ虫嫌いだモン。」

ああそうですか。
幼い子どもの「生命への畏敬」なんて所詮そんなモンですかね。
父も母も、あっけらかんとしたアプコの変わり身に、なんだかがっかりしたような、ちょっとホッとしたような。


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