月の輪通信 日々の想い
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ゲンは、飛ぶものが好きだ。 紙飛行機もグライダーもペーパープレーンもペットボトルロケットも。 そして、ヘリウム風船も。
家族でデパートへ行った。 休日のデパートには人がいっぱい。 画廊で父さんの所用を済ませた後、画材コーナーに立ち寄り、女の子達の洋服をウィンドショッピングし、おもちゃ売り場をうろつき、地下の食料品売り場でテイクアウトの昼食を物色する。 田舎者の我が家の常で、じきに誰かが人ごみに酔って「頭痛〜い」「かえりた〜い」と言い出すに決まっている。ちゃっちゃと用事を済ませて早々に車にもどりたいところだ。
「おかあさん、アレ。」 とアプコが母の服のすそを引っ張って指差したのは、よその子ども達が持っているデパートのロゴの入った赤い風船。GW商戦のサービスでどこかで配っているのだろう。 「あ、ホントだ、アプコもどこかでもらえるといいね。」と適当にあしらっていたら、今度は店員のおじさんが色とりどりの風船をたくさん持って、アプコの前を通り過ぎた。 「ねぇねぇ。アプコ、風船、欲しそうだよ。」 飛びつくように訴えてきたのはゲン。なんだかとっても嬉しそうだ。 「ホントに欲しいのはアプコなの?それとも、ゲンなの?」 という母の意地悪い質問は聞こえなかった振り。 「じゃ、ゲン、アプコに貰ってきてやってよ」 と頼んだら、アプコの手を取ってピューッと風船を持った店員さんを追っかけていってしまった。 傍らで見ていると、まずはお兄さんぶってアプコを前に押しやりながら、自分もちゃっかり青い風船を選んで手にしている。 5年生のゲン、さすがに幼い妹を盾にしないと、「風船ちょうだい!」がいえないテレもある。
何故だか急に面倒見がよくなったゲン兄ちゃんが、自分の分と称して余分の風船を貰ってくれたと思い込んでいるアプコ。 「二つとも持たせて」とゲンにせがむ。 「これは僕の・・・」と言えないゲンのちょっと困った顔。 「アプコ、それはゲンのだよ。ゲンが貰ってきたんだから・・・」 と横から助け舟を出す。 何やら不満ありげなアプコをよそに、ゲンがニタニタ笑いながら、照れくさそうに自分の分の風船を私に見せた。
いいよいいよ、ゲン。 ちょっと大きくなったって、風船くらい欲しがってもいいんだよ。 そんなに恥ずかしがる事はない。 ふわふわ浮かぶ風船を見ると、ワクワクしてたまらなく欲しくなる。 君のそういうところが母はたまらなく好きなんだ。
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