月の輪通信 日々の想い
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2005年04月26日(火) 「ピザピザピザ」

ひいばあちゃん入院6日目。午前中付き添いにいく。
医師の回診があり、「おばあちゃんはここへ来て、3キロ体重が減りましたよ」と告げられる。それは、衰えてやせたのではなく、利尿剤の効果で余分の水分が出たためでよい兆候なのだそうだ。実際、入院当初はパンパンにむくんでいた足がほっそりとして、楽そうになった。ひいばあちゃん自身目に見える形で回復が分かるので嬉しそう。午後からは点滴もラインだけ残してはずしてもらった。

夕方、友達の家に遊びに行っていたゲンがプリプリ怒って帰ってきた。
友達との約束の時間が迫っていて、大急ぎで自転車を走らせている時にT君たち数人につかまってしまったという。
Tくんは、去年のクラスで何かとゲンに嫌がらせをしたり、からかったりしてきたゲンの宿敵。いわゆる「いじめっ子」というやつだ。今年はクラスも別になりホッとしていたのだが、今日はたまたまTくんと仲間達がつるんでいる所にゲンが行き当たってしまったのだろう。
ゲンが乗っている自転車を「貸せや」と取り上げたり、ゲンが持っていたカードを勝手に持っていったりして、なかなか返さない。挙句には、なんとか取り返して友達の家へ向かおうとするゲンに「先生には言うなよ。」と捨てゼリフを投げたのだという。
「むっちゃくちゃ腹が立つねん!」
鼻息荒く語るゲン。
以前のいじめの時には、その怒りのやり場に困って自分の傘をばらばらへし折ってしまったゲンだが、5年になって少しその辺の気持ちの収め方を学んだらしく、とりあえず母にありのままの怒りを訴える事にしたようだ。

昨年は同じクラスだったので、直接担任の先生に訴えてなんとかTくんの嫌がらせを止めさせてもらうように試みたが、残念ながらあまり効果は見られなかった。かえってゲンの中には担任のK先生に対する「訴えても仕方がない」という不信感を残しただけに終わったように思う。
今年、Tくんとは別のクラスになり、おおらかで頼りになるT先生に担任をして下さる事になった。
「T先生に言ってみようかな。Tくんは他のクラスの子だからT先生に訴えても仕方がないのかな。」と呟くゲンの口調には、去年のK先生に感じた不信感の名残と、新しい担任のT先生への期待が微妙に入り混じって感じられる。
「う〜ん、そうだねぇ。」
母も微妙に考え込む。

嫌がらせの程度は、見ようによっては遊びやふざけの行き過ぎといえないこともない。こういうレベルのちょっかいというのが、一番厄介だ。
親も子も「ちょっとふざけすぎただけなのに」という逃げゼリフで言いぬけるのが常套だ。
けれどもそういう軽微なからかいやふざけも、特定の個人をターゲットにくりかえすと、やられるほうにとっては結構なストレスとなる。
やっている本人も「先生には言うなよ。」と口止めをするからには、「いじめ」の自覚があるからだろう。
けれども一方、子どものけんかに親が出て行くことの野暮やゲンが自分で解決する力を考えると、親としてどう対処してやればいいのか、ふと考え込んでしまう。

ま、とりあえず、美味しいパンが買ってあるからそれでもお食べよ。
夕食前の一番空腹な時間。
ゲンは袋の中から、一番ボリュームのあるピロシキを選んで食べ始めた。
「あはは、怒り狂っている時でも、ゲンは美味しそうに食べるねぇ。」
ふっくらした頬に揚げパンの脂をテカテカさせて、むしゃむしゃ頬張るゲンの笑顔。
「あ、そうだ!いいこと考えたよ。
これからね、ゲンがまたTくんに嫌な事をされたら、いつでもお母さんがそのピロシキ買ってきてあげるっていうのはどう?」
突然思いついた奇抜な提案に、ゲンが「はぁ?!」と聞き返す。
「美味しいもの食べて、イライラが収まるんなら、それもいいじゃん。Tくんに何か嫌な事をされたらね、『あ、ピロシキ、食べられるぞ、ラッキー!』って思えばちょっと腹が立たないんじゃない?」
なにいってんだろうね、この人は・・・と呆れ顔のゲンも、母の提案の馬鹿馬鹿しさに笑ってしまう。
そして「ピロシキじゃなくて、ピザじゃ駄目?」とふざけて母のおバカの提案に乗ってくる。
「そうだね、それいいね。Tくんの顔見たら『あ、ピザが来た!』って思えばいいんだよね。」
「でもね、Tくんに向かって『ピザピザピザ』なんて言っちゃ駄目だよ。ばれちゃうからね。」
と母も笑う。

とりあえず今回はそんなことでことを収めておいてやろうと思う。
食いしん坊で、時には突如食欲魔人と化すゲン。
激しい怒りや納めきれないイライラを、美味しいものを食べる事でいくらかでも解消できるゲンのおおらかさは、アユコやオニイにはない特別な才能だ。
「ピザピザピザ」で笑うことで、当座の悩みを笑い飛ばしてしまう知恵も彼には必要な力となるだろう。
「食べる事に意欲的な子は、生きる意欲もエネルギーも旺盛だ」
母親暦十数年のうちに勝ち取った子育ての実感。
我が家の大食漢には、確かにそんな豊かなエネルギーが秘められている。
ゲンならきっと大丈夫。
そう思う。


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