月の輪通信 日々の想い
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PTAの役員総会。今年度の新しい役員さんが決まり、ようやく昨年度の広報委員長の引継ぎを終えた。 新しい広報委員長はフルタイムで働くお母さん。副委員長に比較的時間に余裕があるという方が立候補してくださったので、ホッとする。
午後、ひいばあちゃんの病院へ行く。 朝の回診で、あと一週間は少なくとも退院は無理と聞いたひいばあちゃんは、かえって諦めがついたのだろうか、あまり「帰りたい」とはいわれなかった。看護婦さんたちもひいばあちゃんの扱いにちょっと手馴れてきたのだろう。 先日ひいばあちゃんがショックを受けたという清拭は、今日は看護婦さんにお湯を入れてもらって、私が代わりにタオルで手足を拭いて差し上げるだけで済ます。暖かいタオルでお顔をぬぐって「ああ、スーッとした」と嬉しそうな顔。体もざーっと拭いて最後にむくみのひどかった足を拭く。腫れはかなり納まっていて、もう痛々しい感じはない。
TVでは尼崎の脱線事故のニュース。 つい一昨日まで、「TVはよう聞こえんから見ない」といっていたひいばあちゃんが、イヤホンのボリュームをいっぱいに上げて熱心にニュースの映像を眺めている。不謹慎な話だけれども、ひいばあちゃんにとっては単調な入院生活の中に飛び込んでくる刺激的な現場映像に心がゆすぶられたのだろう。体を起こし、しっかりTVの方をむいて、「いやぁ、また死んだはる人の数、増えたわ。」と感嘆の声を上げる。若い人や学生さんの被害も多いとの報をきいて、「かわいそうになぁ」と呟く。 ようやく、いつものひいばあちゃんのペースが戻ってきた感じ。
「100歳まで生きて欲しいと皆が言うけど、なかなか100年というと、いろんなことがあるわなぁ。あと三年やなぁ」 ひいばあちゃんがしみじみと呟いた。 「97歳でも、初めて入院すると、知らないこといっぱい経験したもんねぇ。」 と私が茶化す。 「はぁ、ほんまに、まだまだ知らんことや分からん事がいっぱいあるんやなぁ。」 そうですか。 97歳にして、まだまだ「知らないこと」や「分からないこと」がたくさんありますか。 その半分もまだ生きていない41歳の私には、分からない事や知らないことがたくさんあって当然ですね。 「ああ、ホンマにいろんなことがあるわいな」 入院中何度もひいばぁちゃんの口から漏れる金の言葉。 それは不本意な入院生活の事ですか。 それとも平和で穏やかな朝に突然起きた脱線事故の悲劇のことですか。 それとも迷いの最中にある41才の若造への戒めをこめた未来の予言でしょうか。
長年の仕事で小さく干からびたひいばあちゃんの手。 白髪をくるりとまとめて髷を結ったひいばあちゃんの小さな頭。 この中にはまだまだ教え伝えておいていただきたい金の言葉がたくさん詰まっているのだろうなぁ。 いとおしい思いで、点滴針の刺さる細い腕を長い事さすらせて貰った。
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