月の輪通信 日々の想い
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2005年04月22日(金) ひいばあちゃん入院

>先日来体調がよくなかったひいばあちゃんが今日近所の病院に入院の運びとなった。心臓の機能が低下して肺に水が溜まり、足のむくみがひどいのだという。少し動くと胸が苦し苦なったりふらふらしたりなさる。

97歳という高齢にも関わらず、自分で階下のトイレまでさっさと歩いていき、自分のペースで仕事をこなし、若い者と同じものを美味しく召し上がるひいばあちゃん。このまま当たり前のように100歳になり、バリバリ仕事をしながら120歳まで長生きなさるように思い込んでしまっていたけれど、やはり長年こつこつとよく働いた体も年をとると少しづつその機能の幅を狭めていくのだろう。
入院だ、点滴だといいながら医者にも付き添う家族にも「何と言ってもこの年でもあるしねぇ。」のニュアンスが残る。97歳という年齢は、もう、これから何があっても「大往生」と穏やかに受け入れられる年齢なのだろう。
けれども、当のご本人には、全くそんな弱気は見られない。
今日も「頼まれてた仕事を今日するつもりだったのに・・・」と甚だ不満そうに病院への車に乗りこんだ。医者の診断ではもうかなり息苦しくてしんどい筈というのに、本人は2,3日したらさっさと帰って残った仕事をするつもりでいる。実際の容態にも関わらず、本人はニコニコといたって上機嫌で、大きな声で話し、ご飯もたくさん召し上がる。

入院に付き添う義兄に義母も一緒に行くという。
女手が義母だけではおぼつかないというので、急遽私も一緒に車に乗っていくことになった。ひいばあちゃんを車椅子に乗せると、「私が押す。」と頑固に言い張るお義母さん。これまで嫁として厳しい姑に仕えてきたプライドがそうさせるのだろうか。義母自身の年齢や体調を考えると、まさに「老老」介護なのだけれど、嫁の意地のようなものが感じられて、ハッとする。

頭はとてもはっきりしているひいばあちゃんも、耳はとても遠くなっていて補聴器の調子もよくないので、医者や看護婦とのコミュニケーションがうまく取れなかったりするので心配だ。
相手の口調や声の調子によって、聞き取りやすい言葉やそうでない言葉があるらしい。お義父さんは「近頃ひいばあちゃんは耳がほとんど聞こえていなくて、トンチンカンな受け答えをする」とぼやいておられたが、私自身はひいばあちゃんのそばで一対一でお話していると、それほど大きな声を出さなくても私の話をよく理解して受け答えをしてくださっているように感じる。
決して聞こえていないわけではない。
だから、「ひいばあちゃんには聞こえていないはず」と油断しての会話や不用意な言葉は禁物と私は思う。

夜、剣道の送迎の間の時間に、入院生活に必要なものの買い物を済ませて再びひいばあちゃんの病室へ。
絶対安静が必要なのに本人はいたって機嫌よくベッドに腰掛けてお喋りをしておられる。いつもの茶の間でのひいばあちゃんとあまり様子は変わらない。鼻につけられた酸素のチューブが邪魔らしく、油断するとすぐにヒョイと鼻の上へ持ち上げてしまわれるのがいたずらっ子のようでなんともかわいらしい。病院は静かで退屈だとおっしゃるので二人でたくさんおしゃべりをした。
この人の孫嫁となってから15年。ずいぶん可愛がって頂いた。
いつも私のつたない手料理の味を褒めてくださり、子ども達の誕生をいつも涙を流さんばかりに喜んでくださった。
いつもは茶の間にちょこんと座ってTVを見ていらっしゃるか、仕事場の定位置で黙々と釉薬掛けの仕事をこなしておられるか。格別お世話したりお話をしたりというわけでもないのに、いつもそこに座っておられるという安心感が意外にも大きなものであったのだと改めて思う。
まだまだこの人を失いたくない。
お元気に退院されて、「この仕事が気になってたんや」といつものように仕事場のいすに戻っていただきたいと心から思う。

ひいばあちゃん入院の報をきいて、一番堪えたのは意外にもオニイだった。
道場への車中で、ひいばあちゃんの話をした。
「僕にとってはひいばあちゃんの存在というのは、何と言うかとても大事なんや。」としみじみと話す。
窯元の仕事を継ぎたいと本気で考え始めているオニイにとって、少女の頃から先々代に仕えてもくもくと職人仕事に励んでこられた偉大なる曾祖母の存在は意外にも大きいのだろう。
ひいばあちゃんは初めての男の内孫であるオニイの誕生を、本当においおい泣かんばかりの感激で祝ってくださった。先代さん(先々代)のお墓参りのたびに「『ボクが窯元を継ぎます』といいなさい」と幼いオニイに何度も教えられた。
自分の将来にストレートな期待を込めて見守ってくださるひいばあちゃんの思いをオニイは深く感じ取っているに違いない。
せめてオニイが正式に陶芸の世界に入る道筋が立つまで、ひいばあちゃんには元気に仕事場で頑張っていただきたい。
まだまだこの人を失いたくないのだ。


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