月の輪通信 日々の想い
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小学校、家庭訪問。 今年は、ゲンもアプコもそれぞれオニイとアユコが担任していただいた事のあるおなじみの先生方に受け持っていただいたので、家庭訪問も和やかな世間話の雰囲気で始まって、「よろしくおねがいしますね!」と笑顔で手を振ってお見送り。 どちらの先生からも、「お兄ちゃん(お姉ちゃん)とほんとによく似ていますね。」という言葉がこぼれて、兄弟姉妹の「比較検討」話が盛り上がったのは可笑しかった。 親の目から見れば、子ども達の一人一人がこんなに違うものかと驚く事の方が多いのだけれど、外から見るとそのしぐさや声や立ち居振る舞いのくせなど、時々ビックリするほど兄弟というのは似るものらしい。 「背後からゲンちゃんに『先生!』なんて呼ばれたら、一瞬おにいちゃんの声と錯覚しちゃう事がありますよ。電話だったら判らないんじゃないかしら。」とおっしゃるので、 「ああ、オニイならもうしっかり声変わりしてオッサン声になってますから、その心配はないですよ。」と笑う。 そういえば、もうすっかり聞きなれてしまった声変わり後のオニイの声。 小学生の頃はどんな声で喋っていたのだろう。 毎日毎日聞いていたはずなのに、耳からの記憶って意外と曖昧なものなのだなぁ。
午前中はPTAの引継ぎの役員会の打ち合わせで、久しぶりに小学校のランチルームを訪れる。 新しい役員さんたちも出揃って、来週初めには担当役員を決めて正式に引継ぎの運びとなる。昨年度までの広報委員会の引継ぎ資料をどーんと段ボール箱に詰め込んで、PTA室の戸棚においてきた。 ようやくお役御免の日が近い。一年間一緒に活動してきた委員さんたちと久しぶりに会って、新学期の子ども達のことやクラス配分、移動された先生方のことなどひとしきりお喋りが盛り上がった。
その中で面白かった話。 子ども達が大きくなって、近頃ではパソコンの些細なテクニックやら知識やら子どもから教えてもらうことが多くなった。子ども達のパソコン習熟能力は驚くほど早くて、「おかあさん、こんな事も知らないの?」と言わんばかりに偉そうに教えてくれるのだという。 「子どもがいろんなことをどんどん覚えていくのって嬉しい事なんだけど、なんか癪にさわるのよね。」と皆で相槌を打つ。 「『アンタにパンツの上げ下ろしからおしっこの仕方まで教えてあげたのはこの母よ』って言ってやればいいのよ。」と私が言ったら、 「ホントよ、ホント!」と妙に盛り上がってしまった。 寝返りすら一人では出来ぬ赤ん坊に数時間ごとにおっぱいを与え、基本的な生活習慣を教え、歌うことを教え、言葉を教え、そうやって大きくなった子ども達がまるで何もかも自分の力で習得したかのように新しい知識を得意げに母に語る。 それは当たり前の子どもの成長で、親にとっては嬉しい事には違いないのだけれど、なんだかちょっと寂しいような、癪に障るような複雑な思いが胸をよぎる。 「そうはいってもまだまだ子どもは子どもよ」と言いながら、子どもの成長のスピードにちょっとブレーキをかけて、もう少しちいさな子どものままでいて欲しいというような気持ちになるときもある。
夕方、アユコが大きな通学かばんとともに、新聞紙でくるんだ花束を持ち帰ってきた。 中学生になってアユコが選んだクラブ活動は、茶道部と華道部の掛け持ち入部。今日は始めての華道部の活動があったのだという。 稽古で使った花材をそのまま頂いて帰ってきたのだ。 家族の目にしか触れない我が家におくよりは、たくさんのお客様を迎える工房の玄関に飾らせて頂こうとさっそく出向く。 工房のあちこちにしまいこんである水盤や剣山を探してもらい、花材を広げる。お稽古で先生に教えていただいたとおりにと、おさらいを兼ねて大振りな枝や薫り高いカサブランカを活け始めたアユコ、時折母のほうを振り返って小首をかしげる。 「だめだよ、アユコ。お母さんはお茶は少しは習ったけれど、お花は一度も正式に習った事がないんだもの。訊かれたって何にもわからないよ。」 自分では一度も習う機会がなかった華道の知識を、娘が新しく母の知らないところで習ってくる。そのくすぐったい嬉しさもまた、「ちょっと癪に障る」気持ちの裏返しだ。 「お母さんが知らない事を習ってくるのって、ちょっとワクワクするんでしょ?」 興に乗って、先生から今日お習いしたばかりのことを得意げに話し始めたアユコがうふふと笑ってこくりと頷く。
「おかあさん、今頃になって奥歯が一本生えてくるみたいなんだけど・・・」 この間、オニイがいぶかしげに尋ねた。 「ああ、それは親知らずだわねぇ。もっとずっと大人になってから生えてくることもあるから『親知らず』っていうんだよ。」 親の知らないところで、にょきにょきと力を蓄え、芽吹きを待つ子ども達の成長のパワー。 ちょっと嬉しく、ちょっとねたましい。 この複雑な母の心情。
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