月の輪通信 日々の想い
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アプコ、先日卒園したばかりの幼稚園のお別れ会。 父母会の立案で今年度でご退職になる7人の先生方の送別会を兼ねての楽しい集まりだった。 卒園式から十日あまり。 「さよなら、元気でね」と手を振って後にした園庭を再び訪れるのは妙な気分で、アプコはいつもの制服ではなくて私服で訪れるのがなんとなく不安げで「ほんとにこの服でいいの?」と何度も尋ねる。 たった10日の間に、園庭のチューリップの芽はぐいっと伸び、通いなれた保育室はすっかりきれいにお掃除されて、先生方が新しい園児を迎えるための飾りつけをはじめておられる。 長い間毎日通った幼稚園も、もううちの子が通う幼稚園ではなくなったのだなということがしみじみと感じられる。
会が始まる前に、卒園式のときに仲良しの先生方と一緒に撮らせてもらった記念写真を先生方におわたしした。アプコが自分で配りたいというので、一人分ずつ封筒に入れたものを渡して配ってもらった。ほとんどの先生方はすぐに見つかって渡すことができたのだけれど、あと一人だけどうしても近くにお姿が見えない先生がある。 会の集合時間も迫っていたので、あとでもう一回探しに行くことにした。
小さなリズム室に4クラス分の親子が集まってのお別れ会。先生方のリードで、子どもたちと楽しいゲームが用意されていた。 アプコは10日ぶりに顔をあわせるクラスメートたちとふざけあうのにもなんとなく気後れして、遊びの輪にも入っていこうとしない。そのうち、集合の合図がかかって、ほかの子たちがクラスごとに並ぶようになっても母の足元にすがり付いて離れようとしない。無理に友達の列に戻そうとすると、あっという間に泣きべそ顔になった。 あらあら、もうすぐ一年生になるというのに、入園式に逆戻りのような甘えんぼぶり。どうしちゃったのかなぁと思いつつ、一方では「もう園児ではないけど、まだ大好きな幼稚園に入るアタシ」という微妙な違和感に悩まされているアプコの戸惑いもなんとなく理解できる。 アプコの不甲斐なさにしょうがないなぁとちょっと情けない気分になったけど、無理に友達のところへは戻さず、会の間中、親子でべたべたくっついてすごした。
会が終わって帰る時間になって「ほら、M先生、探しておいで。」と封筒を渡した。まだ、さっきの泣きべその名残でちょっとへこんでいるアプコは「お母さんも一緒にいこうよ」と渋ったけれど、「一人で行っておいで」と背中を押して送り出す。 玄関のロビーに立ったまま、アプコが長い渡り廊下をパタパタ下って行くのを見守る。 アプコはなんとか後ろを振り返りながら、△組のドアの前までいくのだけれど、その場でもじもじしてノックもできずに戻ってきてしまう。そのたびに「もう一回行っておいで」「トントンってノックしてごらん」と新たな指令を繰り返す。
末っ子姫で内弁慶のアプコ。 世話焼き上手なアユコやお兄ちゃんたちと行動するときには結構大胆にわがままを言ったり大きな声を出したりするくせに、一人で行動する段になるとどうしても恥ずかしがったり気後れしたりして戸惑ってしまう。 3年間の幼稚園生活を通じて、すこしづつ先生方に甘えお友達と仲良く遊ぶことを覚えて、お母さんやお姉ちゃんの知らない自分だけの世界をはぐくんできたはずだった。 ぴかぴかの一年生になる日を間近に控えて、急に甘えん坊の幼稚園児に戻ってしまったアプコ。 大好きなM先生のお部屋をノックして、写真を渡してくるのが今日のアプコの卒園試験。 何度も何度も首を傾げて戻ってくるアプコに手を振って、早くM先生がドアの外のアプコの存在に気づいてくれないかなぁとやきもきしながらそっと見守る。
何度目かの往復のあとで、ようやくM先生がドアの外のアプコに気付いてくれて、やっとアプコは写真を渡すことができた。M先生とお話をするアプコの顔に笑みが戻った。遠くからその笑顔を見届けてほっと気持ちが緩む。 アプコにとっては、別々の学校に進むお友達や大好きな先生とのお別れも、通いなれた園を去ることも生まれてはじめての別れの経験。 卒園式の時には意外とけろっとしていたアプコも、たった10日のお休みを経て再び園を訪れる段になって、ようやく長いさよならの意味を理解したのかもしれない。 ちゃんと一人で写真を届けて、先生と握手をして「さようなら」できたアプコは晴れやかな顔で再び渡り廊下を駆け上ってくる。 卒園試験、なんとか合格。 明日もがんばれ。
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