月の輪通信 日々の想い
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父さんが4月初めに予定していた韓国への視察旅行が流れた。 韓国ととなりのH市の文化交流事業の一環で依頼されていた旅行だったが、「竹島」を巡る情勢の悪化で実施を見送るとの連絡があったらしい。 「視察旅行なんて始めてだぁ。」と、依頼があってから父さんは韓国の陶芸に関する情報を集めたり、仕事の段取りをつけたりしていたが、急に予定がキャンセルになって呆然としてしまった。 韓流ブーム、日韓国交正常化40周年とにわかに親しい国となった観もある韓国だが、やはりまだ過去の苦いわだかまりを抱えた隣国でもあるのだと身近に感じる。
遅めの昼食に帰ってきた父さんが「福岡が大変なことだね。」と顔を曇らせている。午前中子ども達とあちこち外出していて、その時初めて地震のニュースを聞いた。 この月末から四月の初めにかけて、福岡のデパートでうちの窯元の展示会が予定されている。前売りのための作品も何点か既にあちらへ送り出した。どれもダイレクトメールに掲載した主要な作品ばかりだ。 いつも会場に詰めて作品の説明や商談を進める義兄のほかに、父さんも2,3日あちらへ出向いて会場入りする予定だったのだけれど、先方との連絡も取れないのでどうなることか分からないという。 かの地の甚大な被害状況を報道の画面で見ていると、作品や展示会の行方を心配をしたりするのは不謹慎なことではあるけれど、これまで力を入れて準備を進めてきた展示会が直前に流れるのは作家にとってはとても苦しいことだ。自分の作品の安否を気遣うのは、自作に対する我が子を思うような愛着があるからだ。 「展示会はどうなるの?作品は無事なのかしら?先方との連絡は取れたの ?」 矢継ぎ早に質問を繰り出す私に父さんは急に不機嫌になり、「どうなるか分からない」と口をつぐむ。 父さん自身も被災地の状況を心配する思いと、自分の作品や展示会の成り行きを気にする気持ちの狭間で、イライラと心を収めかねているのだ。
春先の予定していた二つの大きなお仕事がともに一度に白紙になって、呆然としている父さん。 実は去年も、展示会を終えて引き上げてきたばかりの新潟で大きな地震があり、残してきた売却済みの作品の安否をずいぶん心配したばかり。 なんだかこのごろ、父さんの仕事は天災や事件でトラブル続き。 「なんだか星回りが悪いのかもしれんなぁ。」と凹んだ父さんを見るのは辛い。 そういうときもある。仕方がないよ、とうさん。 元気出そうよ。 次々にトラブルに見舞われてはいるけれど、実際には父さん自身が事件に巻き込まれたり怪我をしたりしているわけではない。 考えようによっては微妙な所でうまく父さん自身の危険を回避出来ているのかもしれない。 元気な父さんがここにいて、再び新しい作品を作りあげる父さんの手がここにある。
突然降って沸いた春の足踏み。 すっぽりと空いた父さんのスケジュール帖の数日を、しっかり生かしていいお仕事残そうね。
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