月の輪通信 日々の想い
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八百屋の店先に菜の花の束が目に付くようになって来た。 春だなぁと思う。 我が家では、冬場にはきゅうりや茄子はあまり食べない。 夏場には大根やかぼちゃの煮物は作らない。 出来るだけその季節が旬の食材を中心に頂くのが我が家の食卓の第一信条。そのなかでも、一番春を思わせる食材の登場は、実家からいつも送ってもらういかなごの釘煮と食用の菜の花。そして大きな皮付きのタケノコへと移っていく。
やわらかい先端の部分ばかりを短く綺麗に切りそろえて薄紙を巻いて束ねた菜の花よりも、太い茎の部分まで大雑把にワイヤーでくるりと束ねたものが好き。 いつもより少しやわらかめに茹でて、たっぷりの煎り胡麻で和え物にする。 少し残る苦味と香りがいかにも春の味わいで、心ほころぶ。
ザバザバと水洗いする前に、つぼみに黄色い花弁の色がのぞきかけた開花直前の数本を流しの前の小瓶に取り分けておく。 食用の菜の花のがっちりと太い茎は水揚げもよく、付いているつぼみはいつも数日のうちに綺麗に開花する。 春の日差しの入る台所の出窓で、洗ったお茶碗やガラスコップの合間に晴れやかな黄色を誇らしく輝かせる菜の花の一輪挿し。 ひと束で二度美味しいおまけつきの春の楽しみのために、私はあえてお買い得な茎の長い菜の花を買い求める。
夕方、工房のお茶室でいつもの茶道のお稽古。 庭に花の少ない冬の間、お茶室に活けるお茶花の調達には毎回苦心する。 先週は花屋の店先で見つけた出始めたばかりの雪柳と変わった色のポンポン菊で乗り切ったが、さて今週はどうしようと父さんと相談していたら、どちらとも無くお台所の菜の花に目が行った。 数日前に取っておいた菜の花はそのうちの一本がちょうどこぼれるように開花し始めたところ。 「わるいなぁ、貰っていいかな。」 と、父さんがそそくさと抜き取って持っていってしまった。 あらら、ひと株で3度美味しい菜の花だわ。 お買い得菜の花の異例の出世がおかしくて笑う。
夜、お茶のけいこが済んだ父さんが、先生から頂いたという嵐山の名物桜餅の折箱をお土産に持って帰ってきてくれた。 菜の花が桜餅に化けたらしい。 春の菜の花には本当に楽しみが尽きない。
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