月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
オニイは美術部の部長。 春休みに部員達を工房の見学に連れてくると言う。 「いいよ、いいよ」と父さんの予定の空いた日を選び、「見学の内容や時間はちゃんと企画しなさいよ」といっておいたが、3学期もあとわずかだと言うのになかなか概要が決まらない。 「そろそろちゃんと決めて、部員にも先生にも父さんにも伝えなさいよ」と小言を言ったら、 「ちゃんと考えてあちこち調整してる最中だから。悪いけど、僕の思うようにさせてくれる?急がなアカンのもよくわかってるから・・・」 と帰ってきた。 「あ、そう」と引き下がったけれど、今の言い方、誰かに似てる。 父さんだ。 予定が詰まってアップアップしそうなとき、何か手伝えることがあればと私が口を出すと、きっと帰ってくるその言葉。 「悪いけど、僕の思うようにさせてくれる?」 いらぬ差し出口を責める口調にならないよう最大限気を使って選んだその言葉は、いつも早手回しに口を出してしまう私への常套の断り文句だ。 似てる、似てる。
「かあさん、アユコって、人を使うのがうまいよな。」 二階から降りてきたオニイが愚痴る。 「なぁに?アンタの部屋の洋服片付けるように言われたんでしょ?」 「当たり。何で分かったの?やっぱりアユコ、口調だけじゃなくて発想も母さんに似てきたのかなぁ。」 などという。
「あ、いいな。僕もサイダー、頂戴!」 と擦り寄ってきたゲンに「いや!やらない!」とむげに断るアユコ。 大きなペットボトルにいっぱい残ってるのに、アユコってけちんぼだなって言うと、 「いいの。ゲンは今さっきまでコタツでぬくぬくしてて、『コップ取ってきて』といっても全然聞こえない振りしてたから。飲む資格なし!」 とアユコが口を尖らせて言う。 「ゲンよ、それはアンタも悪い」と思っていたら、 「今の言い方も母さんに似てるよな。」とオニイが笑う。 横から父さんまで、おかしそうにへらへら笑っている。 あたしってば、いつもあんなにぐうの音も出ないような断り方してたんだっけ? そうかなぁ、もうちょっと愛のある言い方してると思うけどなぁ。
「子は親の鏡」と言うけれど、ちょっとした物言いや態度を即座に映す子ども達の存在は大きい。 しかもその「あ、今の、母さんに似てる!」を、子ども達の口から指摘されるのは痛い。すごすごと引き下がって、項垂れるしかない。 いつも私を取り巻く子ども達の目。 毎日毎日、厳しく測られる私の日常を重く感じる。
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