月の輪通信 日々の想い
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2005年03月16日(水) さよなら、幼稚園

アプコ卒園式。
昨夜の雨もあがって、晴れやかな陽気の朝だった。
すっかり短くなった制服のスカート。
髪飾りを気にしてヒョイと後ろに跳ね飛ばしたままの制帽。
擦り切れてかかとが柔らかくなってしまった通園靴。
見慣れた制服姿のアプコも今日で見納めだ。
父母にとっても、オニイの代から数えて11年通った幼稚園からの卒業の日。
園児の増加ですっかり窮屈になった園舎にも、おなじみの先生達にも感慨無量。

思えば長かった我が家の幼稚園生活。
オニイが在園していた頃から比べると、園児の数も増え、先生方や職員の方のお顔もほぼ入れ替わった。
特に今年は、今年度限りで退職される先生がたくさんいらして、中堅、ベテランの先生方がごっそりと7人もおやめになるという。
我が家の子ども達がお世話になった先生方もたくさん退職なさって、たった一人しかお残りにならない。アプコの卒園を期に、すっぱりと幼稚園とのご縁が切れてしまうようでなんとも寂しい。

幼稚園の先生方がお若いうちにどんどん退職なさるのは、何故なんだろう。
「寿退社」とか園の経営システムだとか、なんだかそういうものがあるかなぁ。
新任で「右も左もわかりません」状態の先生方も、初めて担任のクラスを持って日々の忙しい保育に奮闘するうちに、卒園児を送り出して中堅になり、次第にベテランの先生に成長なさっていく。
我が家のように幼稚園長期戦の保護者にとっては、子ども達の成長とともに、若いお姉さん先生達が日ごとに熟練した保育者として自信を持ち、活躍していかれる過程を見守っていくのも楽しい。
傍若無人のやんちゃ坊主達に手を焼き、泣き虫甘えん坊をしょっちゅう抱きかかえ、ついでに事あるごとにいらぬ口を出す「お母様方」の親バカな要求や苦情ににこやかに応える。それがお仕事とは言うものの、肉体的にも精神的にも結構しんどい職業なのだろうなぁとも思う。
それだけに、手のかかる30人の園児達との付き合い方のスキルをようやく習得した先生方が「ご結婚」だとか「園のシステム」だとかで、ポンとご退職になってしまわれるのは本当に惜しい気がする。
ああいう人たちこそ、ご自分の家庭を持たれて出産や育児のしんどさや喜びを経験した後に再び「幼稚園の先生」として職場に戻られたら、きっと若さばかりでない円熟した魅力のある先生になられるだろうに。

アユコが幼稚園児だった頃、生まれたばかりの赤ちゃんだったアプコに「アプコちゃんが幼稚園にこられるまでは、きっとお待ちしていますから」とおっしゃっていたK先生も今春ご退職になる。
ちゃんとお約束を守って、アプコの卒園を待っていてくださったように思えてありがたいが、反面これから園を訪ねてもK先生の笑顔にお会い出来ないのが寂しい。
大柄なからだを小さく曲げて、必ず園児と同じ目の高さでお話になる本当に気持ちのいい先生だった。いかにも「子どもが好き!」という気持ちがにじみ出ていて、子ども達にも保護者にも絶大な人気があった。ああいうベテラン先生が職場を去ると言うことは本当に大きな損失だと思う。
近頃急に綺麗になられたとのうわさもあるので、もしかしたら次の活躍の場が見つかってのご退職なのかもしれない。あの人なら家庭に入り、母親になっても、きっと懐の深いよいお母さんになられるだろう。それはそれで意味のある、嬉しいことには違いない。

「おかあさん、卒園のお饅頭、ピンクの方のを頂戴ね。」
いつまでもウルウルと感傷に浸る母とは違い、アプコの視線はとうに明日を向いている。毎日通った小さな園舎よりも、新しいランドセルや給食当番や国語のノートの方に惹かれるのだ。
卒園式を終えて、父さんと前々から約束していたと言う「卒園記念パフェ」の念願を果たし、満面の笑みで生クリームたっぷりのイチゴをほおばるアプコ。
ようやく母港を出たばかりの新米航海士のアプコにはまだまだ振り返ってみる過去はない。意気揚々と前途を見つめる視線の晴れやかさが母にはまぶしい。


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