月の輪通信 日々の想い
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寒い季節になると、ゲンが自分の仕事の風呂洗いを渋る。 夕食前に洗っておく約束なのに、ともすると夕食後、皆がコタツでTVを見る頃になっても風呂洗いが終わっていなかったりする。 それでも我が家では「しょうがないわねぇ」と母が代わりに洗ってやるということはしないので、兄弟達からのブーイングを受けて渋々洗いに行く。風呂場は寒いし水も冷たいので辛いのだろうと、百円均一の店で長い柄のついた風呂洗い用のスポンジを買ってやったらずいぶん嬉しそうにしていたけれど、それでもやっぱり風呂洗いを嫌がる。 時には、なんだかんだと交換条件を出したりおだてたりして、妹のアプコに風呂洗いを押し付けようとするようになってきた。。
「あのさ、風呂場ってさ、一人でいると、なんか怖いんだよね。 振り返ったら、誰かが立ってるんじゃないかとか、窓の外から誰かの手が入ってきたりしそうでさ・・・」 珍しくゲンと二人で車に乗っていたとき、ゲンがそっと打ち明けてくれた。 「うんうん、分かる分かる。水道の水がぽたぽた落ちてたりするのも、結構怖いよね。」 と相槌を打つ。 「それからさ、お風呂で頭洗うたときにもさ、ぱっと顔を上げるのが怖かったりするな。」 「そうそう、自分で自分が『貞子』みたいだもんねぇ。」 「うん、お母さんもそういうのが怖い事ってある?」 「うん、特に夜中に一人でお風呂に入ったりしてるときにね・・・」 「ふうん、大人になっても怖い事ってあるのか・・・」
そうだな、大人だって怖いときもあるんだもの。 4年生のゲンにはいっぱい怖いものがあるんだろうな。 そんな話をしながらうちへ帰り、昨日は大サービスでゲンがお風呂を洗う間、脱衣場で見ていてやることことにした。 ゲンが浴槽を洗う間、大きな声で冗談を言ったり、ふざけて恐怖映画のCMのうめき声を真似してみたり・・・。きゃあきゃあふざけながら、風呂洗いをすませる。 「おかあさん、今日は、助かったよ。あんまり怖くなかった。」
ちょっと怖いときには「怖い」と、嬉しかったときには「嬉しかった」と、素直に言葉にして、ささやきにくるゲンはまだまだ可愛い。あと、数年もすれば、ゲンも空意地で虚勢を張って、めったに母親に自分の弱みを見せようとしなくなる。 自分の弱さや臆病を、ストレートに訴えることの出来る今だからこそ、「ちょっと怖い」を笑い飛ばさずにおおらかに共感して「大丈夫だよ」と言ってやりたいと思ったりする。
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