月の輪通信 日々の想い
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2005年02月03日(木) 豆を煮る

節分。
アプコは幼稚園で福豆の小袋と鬼のお面、そしてなぜか例年さくらんぼの味のキャンデーをもらってくる。
「今年は誰が鬼になってくれるのかなぁ。お父さん、おうちにいる?今年はおにいちゃんがやってくれるのかなぁ?」
幼いアプコはまだまだ豆まきが楽しみなお年頃。
家でも福豆の包みと丸かぶり用の巻き寿司をしっかり買い揃えて、準備万端整えてある。
あらかじめそれぞれの家族の数え年分の豆を、新しい懐紙に一人分ずつ包んでお供えする。子ども達がはしゃいで投げる分の豆もたくさん要るけれど、最初にとっておく数え年分の豆の数も結構な量になる。ことに、おじいちゃんおばあちゃんひいばあちゃん、3人分だけでも小さな小袋一つ分だけでは足りなくなったりする。
福豆はおばあちゃんちの分も含めると、全部で5袋も買った。
「ひいばあちゃん、いっぱい豆が食べられていいねぇ。」
アプコは普段いり豆なんて見向きもしないくせに、小さな懐紙からこぼれんばかりのひいばあちゃんの福豆の数をうらやむ。
「すごいね、父さんの豆と母さんの豆、二つ合わせたよりひいばあちゃんの豆の方が多いよ。ひいばあちゃん、長生きだね。」
ほんとにほんとに嬉しい事。

節分だからというわけではないけれど、食品庫の奥で眠っていた一握りの大豆を圧力鍋で煮る。
以前「もらい物だけど、料理したことないから・・・」という友達から貰い受けて来たものの、私自身も普段は水煮の大豆を愛用していて乾豆を煮た経験はほとんどない。なんとなく億劫な気がしていたのだけれど、この間から玄米ご飯を炊くようになって圧力鍋が少し身近になったこともあって、思い立って大豆をたっぷりの水につけた。
にんじん椎茸こんにゃくを細かく刻み、細切りの昆布とともに甘めに煮る。
ぱらぱらと硬い大豆が、見る間にふっくらと水を含み、こっくりと甘い煮豆に仕上がっていく過程がなんともふしぎで楽しい。
この間の玄米といい、今日の大豆といい、硬くて小さな穀物の粒の中に豊かな滋養と自然の甘みがひっそり眠っている、昔ながらの常備食のもつひそかなパワーに感嘆する。

夕餉の頃、ここ数日体調を崩した義母の為に煮あがった豆を小鉢によそってアプコとゲンに届けさせる。
「ひいばあちゃんに渡したらかえっておいで。うちもすぐに晩御飯だからね。」といったのに、なんだかなかなか帰ってこない。しばらくして息を弾ませて走って帰ってきたアプコに聞くと、「お豆の数を数えていたの」という。
煮豆の受け取ったひいばあちゃんが、「今年の節分の数え年の豆は、やわらかい煮豆にするわ。」といって、煮豆の鉢から99個の煮豆を数えて小鉢に取り分けて下さったのだそうだ。
子ども達の目の前で、一粒一粒箸でつまんで煮豆の数を数えてくださったひいばあちゃんの心遣いが、ほこほことやわらかく暖かい。

「鬼は外!」「鬼は外!」
アプコとゲンが鬼の面をつけた父さんを追う。
きゃぁきゃあと騒ぐ弟妹達を、オニイとアユコが余裕の表情で見守っている。
「『鬼は外』ばっかり言わないで、ちゃんと『福は内』もやっといてね。」
用意した福豆はあっという間に空になった。
家族揃って暖かな食卓を囲む。
我が家の福は確かにここにある。
沈黙の掟を守って、皆でくすくす笑いながら巻き寿司をかじった。


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