月の輪通信 日々の想い
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2005年01月27日(木) 素足の伝統

寒い朝。
あいも変わらず「遅れるぞーッ!」と狭い玄関からあふれ出る子ども達。
靴のつま先をトントンしながら、走り出すアプコ。
いつもいつもランドセルの留め金をカチャカチャ閉め忘れているゲン。
通学帽をうるさそうに振り回すアユコ。
そのあとを、パタパタと追いたてながら、冷え冷えと凍った空気の中に私も飛び出す。
寒さが厳しくなると、どの子もだんだん朝の寝起きが悪くなって、登校の下り坂はいつも転がるような早足で駆け下っていく羽目になる。
ゆっくりウォーキングのおばさんたちを次々に追い越して、たったかたったか坂を下る。

「アプコ、寒そうやねぇ。タイツ、履けばいいのに。」
アユコが、短い制服のスカートからニューッと延びたアプコの素足を指さす。指先が凍えて動かなくなりそうな寒さの中、アプコは短いソックス一枚履いただけで、決してタイツを履こうとしない。
「だってね、タイツ履くと、急いでトイレに行ったとき、困るんだもん。」
ホントはとっても寒いのが苦手なはずなのに、この冬もアプコは頑固にタイツを拒む。
「それは判るんだけどね、見てるほうが寒くなっちゃうよ。」
アユコが笑う。
「あ〜らら、そんな事言ってるけど、アユコも確か、幼稚園の頃にはタイツを嫌がって、寒そうなソックスで冬を越したんじゃなかったっけ。」
「うん、そうなんだけど・・・。」

寒さが厳しくなっても、半そで半ズボンで登校していく男の子達。
タイツや毛糸のパンツを何度言っても履こうとしない女の子達。
冬の子ども達の意地のような我慢比べにもう何年もお付き合いしてきた。
「見てるほうが寒くなるから、せめてもう一枚着ていきなさい。」
何度も何度も口をすっぱくして繰り返す言葉は、実は私自身が幼い日に母やおばあちゃんから言われてきたのと同じ言葉。
あの日小さな子どもだった私は、本当にタイツや毛糸のパンツを履かなくても寒いと思わなかったのかなぁ。
はるか昔のことだから、もはやあのときの北風の冷たさや幼稚園の板張りの廊下の冷たさを思い起こす事も出来ないのだけれど、今、ピンクの頬で白い息をほっほっと吐いて笑うアプコには、寒さなんてものともしない楽しい驚きやドキドキが毎日満ち溢れているものらしい。
「ぴゅーっと走ると寒くないモン!」
冬のアプコはことさらに走るのがすき。
何度も何度も後ろを振り返りながら坂道を駆け下っていくアプコの素足。
すっかり小さくなった幼稚園の制服もあと二ヵ月足らずで卒業だ。


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