月の輪通信 日々の想い
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2005年01月07日(金) 内職

一月早々の京都での展覧会の案内状の発送作業が始まった。
義兄が事務所のパソコンで封筒に宛名を印刷し、その封筒に2種類のパンフレットを組み入れて、封をし、切手を貼る。
封筒詰め以降の作業はいつも女達の内職作業。義母やひいばあちゃんは居間のテーブルを封筒だらけにして数百通のダイレクトメール作りをせっせと行う。
これといって考える事もない単純作業ではあるが、手際よく封入する手順とか、入れ間違いを失くすための確認の方法とかシート状の切手を綺麗に切り離す裏技とか、長年の作業で培った小さなコツや要領がいろいろあったりして作業自体は結構楽しい。

今回はちょうどアユコが冬休みでひまそうにタラタラしているので、「これはいい」と、臨時要員に動員してみる。
封筒やパンフレットの束をドンと我が家の居間に持ち込み、コタツの上を片付けて作業をはじめた。もともと手先も器用で、几帳面なアユコはちょいちょいと教えた手順をすぐに覚えて、けっこう手早く封筒詰めをこなしていく。
「わたし、こういう仕事って結構好き。こういう作業が出来る職業ないかなぁ。」というアユコ。
「そうだねぇ、アルバイトではありそうだね。内職仕事では、こういうの、いっぱいありそうだけど、そんなに儲からないかもね。」と笑う。
「おかあさんはこういう作業、好き?」
「う〜ん、実は好きなんだな。頭使わずにせっせと手だけ動かして、仕事が終わったら、仕上げた封筒の数でその日やった仕事の量がひと目で分かる、そういう仕事って結構好きかもしれない。」
「じゃ、将来はお母さんと一緒に内職仕事でもするかな。」
「はぁ?それでいいの?」
アユコのささやかな就職希望に笑ってしまう。

将来の職業を選ぶというとき、クリエイティブな仕事がしたいとか、自分の特技を生かせる仕事がしたいとか、普通はそういう夢を見るけれど、実際の世の中の仕事というもののなかには、必ずしも自分らしさを主張したりその作業自体に意味を感じたりする事のない単純作業の繰り返しの仕事がたくさんある。
自分らしさを生かせる仕事こそ、やりがいのある「上等の」職業であるかのような思い込みが確かに私にもあるのだけれど、そういう仕事というのは本当は一部分で、かなりの部分は金銭的な報酬という対価を得るために機械的に行う、一見価値のない誰かの単純作業に負うところも多い。

封筒にパンフレットを入れて封をする。
そういう単純作業ですら、「こういう仕事って好き。」と喜んでやれれば、それはそれでちゃんと「上等な」仕事には違いない。
例えば我が家の窯元の仕事。
外から見れば、高価な茶道具や美しい作品がいつも表に出ているけれど、その影には工房での地味な土場仕事や荷造り梱包の仕事、経理や会計などの事務的な仕事がたくさんある。その仕事に携わる人の名前や個性はけっして外に出ることは無いけれど、生み出された作品が表に出て行くためにはなくてはならない瑣末な仕事がやまほどある。
そういう裏方の仕事の意味を意識して、「結構楽しいのよね。」と苦にせず楽しんでしまえる心持ちというのは、地味ではあるが貴重な事だ。
アユコの中にそういう堅実で強い仕事観が育っているという事がちょっと嬉しかったりする。

冬休みに入って、我が家の子ども達は家の中の家事を分担したり工房の仕事を手伝ったりして、結構よく働いてくれた。忙しく立ち働く父母や工房の人たちの様子を目の当たりに見て、「働く」ということについてそれぞれ、何かしら思うことも多かったようだ。
仕上がったダイレクトメールの封筒をまとめてトントンとそろえるアユコの手つきは、すっかり手馴れたものになった。
「明日は切手張りね。」
翌日の仕事の段取りを考える口ぶりも、ちょっと一人前の自信溢れる口調だ。
頼もしい助っ人の成長をありがたく思う。


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