月の輪通信 日々の想い
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朝、サンタさんのプレゼントを期待して一番に目覚めたのは、アプコだった。自分では屋根裏収納の階段を下ろす事の出来ないアプコ、お寝坊のオニイ、オネエを起こしてサンタの到着を確認しに行く。 オニイ、アユコには、図書券と本。 アプコには、リクエストどおりのおもちゃ。 そして、今年はてっきりサンタさんに見放されていると思っていたゲンには、紙飛行機やブーメランの実験キットとグライダーの詰め合わせ。 パジャマのままコタツにもぐりこんで、プレゼントの包みを開ける子ども達の笑顔はやはりまだまだ愛らしい。 さっそく工作に取り掛かるゲンを、オニイが妙に兄貴ぶって、笑ってみている。実はオニイはここ数日、ゲンのプレゼントのリクエストがどんどんもつれていくのをずっと心配していてくれたのだ。 「ああいう手があったか、考えたね。」 「うん、とっても苦労したよ、サンタがね。」 「そだね、サンタがね。」 事実上、今年がサンタ卒業の年となったオニイが、それでも「サンタがね」と付け加えて、いたずらっぽく笑う。 いいおにいちゃんになった。
ここ数日、オニイが年末仕事で忙しい父さんの仕事場に手伝いに入った。 いつも私が任命されていた干支の置物の釉薬がけの下仕事を、オニイに譲る。 夕方ある程度の仕事がたまった所でくるくるっと巻いた美術部用のマイエプロンを片手にオニイが出勤していく。父さんのすぐ後ろの小さなテーブルを臨時の仕事場にして、父さんが仕上げをした生の置物のとさかの部分に赤の化粧土を慎重に塗り分ける。 一日の仕事量は、置物4つか5つ分。時間にすればほんの2,3時間の作業だけれど、父さんの仕事の一端を任されているということが誇らしい。 こつこつと仕上げ仕事をしている父さんの背中を見ながら、慎重に筆を動かすオニイの顔は真剣だ。 それはこの仕事が「体験学習」や子どものお手伝いではなくて、ちゃんとした窯元の仕事の一端であることを知っているからだ。
代々家族で仕事を受けついで来た窯元に生まれて、我が家の子ども達は毎日のように土と向かい合う父の仕事の姿を見て育った。 長男、次男であるオニイやゲンは父の仕事をなんとなく未来の自分の仕事として、傍からの期待も感じて育ってきた事だろう。 迷いもなく美術部に入ったオニイも工作や模型つくりに熱中するゲンも二人ともどこかで「窯元を継ぐ」という事を意識して成長しているらしい。 生真面目に論理で考え、家族や仕事に関して厳しい責任感を感じて育つ長男気質のオニイ。 いつも気ままでふらふらしているくせに、一つの事に魅力を感じると一人でぐっとのめり込んでいく熱中型のゲン。 どちらが窯元仕事には向くのだろうと、父さんと話をする事が多くなった。
同じ男兄弟二人の父さんと義兄。 数年前に義兄が八世を襲名し、数年先には父さんの九世襲名が決まっている。作陶だけでなく営業や経営全般の仕事をこなすプロデューサー的な役目を果たす義兄と、終始工房での作陶に専念する父さん。 どちらも大事な両輪ともいえる大仕事で、どちらが欠けても窯元としての仕事は成り立っていかない。 全くタイプの違う我が家の二人の息子達も、いつかは一つの仕事を上手に振り分けあって、仕事を継いで行くのだろうか。
オニイが釉薬で汚れたエプロンを手に胸を張って工房から帰ってくると、それまでPCで遊んでいたゲンが妙に張り切ってお手伝いモードになったりする。風呂洗いやら夕食の配膳の準備やら、急にパタパタと働き出し、読書三昧のアユコやいつまでもお遊びモードのアプコにハッパをかける。明らかに一仕事終えてきた兄を意識しての行動のようだ。 「僕は大きくなったらね・・・」とさりげなく窯元への進路を宣言したりするゲンとしても、オニイと同じくらい自分も「使える男」としてのアピールをしておきたい所なのだろう。 二人が将来の職業をめぐって静かにお互いを牽制しあっている微妙な空気が、父や母には面白くもあり、未来への気がかりの種であったりもする。
本当の所を言えば、窯元の仕事は見得や体面や誰かへの牽制だけではとても勤まらない。 物を作るのが本当に好きで時には周りの事も忘れてしまうほど制作にのめりこんでしまう芸術家の熱中と、決められた量の仕事をこつこつと積み上げてきちんと時間内に仕上げていく職人の勤勉さが、どちらも同じくらいの重さで必要なのだ。 父さんの普段の仕事振りを見ていて、そう思う。 我が家の息子達に、そんな力がちゃんと育っていくのだろうか。 そこのところを育てるのは、まだまだ母である私の役割でもあるのだろう。 「ものを作る仕事をしたい」といい、代々受け継いだ窯元の伝統を誇りに感じてくれる素直な子どもらの感性を、変に捻じ曲げることなくのびのびと育んでやりたいという想いが、近頃とみに強くなった。
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