月の輪通信 日々の想い
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2004年12月18日(土) 一生分のわがまま

午後、オニイと二人で1日遅れのバースデイケーキを買いに出かけた。
オニイの希望で今回はホールのケーキではなく、一人一個ずつのカットケーキ。お誕生日の華やかさにはかけるが、それぞれが好みのケーキを選ぶ楽しさもまた、良い。
オニイと二人で買い物に出かけるのは久しぶりのこと。帰りに「悪いけど、ちょっと寄ってくれる?」と請われて、オニイのなじみの古本屋、ゲームショップ等に立ち寄る。片田舎のこの町でのオニイの数少ない娯楽の場だ。
注意深く、母とは微妙に距離を置いて店に入るオニイ。
「オカンと一緒」がかっこ悪くて恥ずかしい年頃なのだ。それでもまだ、家族と一緒にバースデイケーキを「ふーっ」する習慣に付き合ってくれるだけ、まだまだお子さまということか。
行きの車の中で、「僕も14歳。父さん母さん達とケーキを囲む誕生日もあと何回くらいあるかなぁ。」なんて、ませた事を言うので、
「そだね、『誕生日は彼女と過ごすから』って、家族を置いて出かけて行っちゃう日も近いかもね。」とからかってみたら、それは、ないないとぶんぶん首を振っている。
やっぱり、まだまだかわいい。

「かあさん、いろいろつき合わせちゃって悪いんだけど、もう一軒、コンビニに寄ってくれる?」
何か目当てのものがあるらしい。しばし、店内をうろちょろしたあとで、「かあさん、50円貸して」という。始終金欠のオニイ、なんだかおねだりもしょぼいなぁ。やはり欲しいものは金315円也のトレーディングカード。
ま、誕生日だしいいかと菓子パンと一緒に精算すると、オニイ、ピョコリと頭を下げて「ありがとな、これ、一生分のわがままにする。」という。
「おいおい、一生分のわがままをたった300円のカードで使い切ってしまってええんかい?」とツッコミをいれると、う〜んとうなっている。

「たとえばさ、公立の学校落ちかたら私学へ行かせてとかさ、『自分探し』の旅に出ますとかさ、そういうわがままってこれからまだまだありうるよ。
『結婚します』と連れてきた彼女が、バツいち子持ちチョー年上でおまけに『ニホンゴ ワカリマシェ〜ン』とかさ。」
畳み掛けるように訊くと、オニイますますうなって考え込んでいる。
「う〜ん、そやな。ありうるな。」
・・・って、どれが?まじめに考え込むオニイに新たにツッコむのも怖い。
まだまだ、君の一生分のわがままはこれからだね。
「じゃあさ、母さんの一生分のわがままってなんだった?」
オニイ、しばらくして改めて訊く。
「そうねぇ、一浪までして4年制の大学に行かせて貰った事とか、そんなに苦労してなった教職をたった3年ほどであっさり辞めて結婚しちゃった事とか・・・」
そうだなぁ、私だって若い頃には、父や母には結構好きなことさせてもらったけれど、その割にはそれに見合うような立派な生き方はしていないよなぁ。
結婚してから後だって、「もう一人」「あともう一回だけ」と5回の妊娠出産を経て4人の子の母となる事が出来たのも、父さんが私のわがままを「しようがないなぁ」と心優しく受け入れてくれたからかもしれない。
我が家の子ども達がぐうたら放題の母の行き当たりばったりの育児に愚痴るでもなく、大きな非行にも走らずすんなりと育ってくれてくれているのも、もしかしたら彼らが私のわがままを「しょうがないなぁ」と不承不承受け入れてくれているからかもしれない。
人が自分のやりたいと思うことを押し通すという事は、他の誰かにとってはその人のわがままを「しようがないなぁ」と笑って見逃してもらっているという事なのかも知れないなぁと思う。

何だか自分で仕掛けた網に自分で引っかかるような、ばかげた思考がいつまでも付きまとう。
私がこれまで生きてきた中でずいぶん頑張って自分で勝ち取ったと思ってきた事柄の多くは、誰かが「しょうがないなぁ」とハラハラしながら受け入れてくださったたくさんのわがままの賜物でもある。
そして今、果たして私は、それに見合うだけの何かを「わがまま」の代償として誰かにお返しするだけの度量を持ち合わせているのだろうか。
子ども達の、夫の、そして他の誰かの「こんな事がしたい!」「こんな風に生きたい!」という強い想いを、「しょうがないなぁ、頑張ってやってみ」と笑って見守っている強さを持つ事が出来るのだろうか。

オニイ。
道しるべのない真っ白な地図の上を生きていく君の未来には、これから先「一生分のわがまま」を使う機会は無数に転がっているんだよ。
たった300円のカードのおねだりを「一生分」と表現する遠慮深い君にも、近い将来本物の「一生分のわがまま」を主張しなければならない日がやってくる。
そのときまで「一生分の」なんて言葉は大事にとっておきなよ。
母もその日が来るまでに、君のわがままを全力で支える度量と体力とそしてなけなしの財力を蓄えておく事にする。
14歳。
これからの君の「一生分のわがまま」が楽しみだ。


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