月の輪通信 日々の想い
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2004年12月05日(日) 誇り高き男

父さん、年末仕事が立込んできて家へも香合の仕事を持ち帰ってくるようになった。
コタツに入って背中を丸めて、細かい仕上げの仕事を続ける父さんにアプコが甘えてしなだれかかり、ちょっかいを出す。
「こら、アプコ、父さんは大事な仕事中や。邪魔したらあかんで。」
説教ジジイのオニイがアプコを叱る。
「人間にとって仕事っちゅうもんはな、『誇り』っていうかなぁ、人生の『目標』っちゅうかなぁ・・・・」
なんだか難しい言葉をいっぱい引っ張り出して、大真面目に説教を垂れはじめる。
「へぇ、オニイ。君にとっては仕事が人生の究極の目標なの?」
オニイのまじめをからかって、母、さっそく、ちゃちゃを入れる。
「うん。そうちゃうのん?このあいだ、『しごと館』の人がそう言ってたで。」
「ふうん、そんなもんかなぁ。」

先日、オニイは校外学習で「わたしのしごと館」という施設に出かけ、簡単な職場体験実習をさせてもらってきた。オニイが参加した漆塗りなどの伝統工芸の他にも、精密機械の組み立てやTV番組の制作現場など多種多様な職業のさわりの部分を体験させてもらう事の出来る人気の施設だという。
フリーターやNEETと呼ばれる若者が増え、働くという事に対する意欲を小中学生の頃から職業教育として経験させておきたいという試みなのだろう。
近頃の職業教育は誠に至れり付くせりだなぁと感嘆するばかり。
オニイ、事前の職業適性検査では「芸術家向き」と判定されて、ひそかに心地よくなってかえってきたらしい。
多分そこでのレクチャーの中で、「人間にとって、働くという事は大事な事だ。」「自分でそれを誇りと思えるような職業を見つけなさい」というようなことをいわれてきたのだろう。生真面目なオニイは、真正面から受け取って感化されてかえってきたようだ。

「父さんにとって作品を作るということは、大事なことやろ。だから、仕事中はふざけたり、べたべたくっついたりしたら、あかんねんで。」
オニイ、今度はアプコにもわかるようにかんたんな言葉でアプコを諭しはじめる。その口調がなんとも真面目で、誰かさんの口調にそっくりなものだから、母もますます面白がって、更にツッコミをいれる。
「でもなぁ、オニイ。父さんは仕事も好きだけど、アプコとへらへら戯れるのも好きなんとちゃう?なぁ、おとうさん?」
父さん、母の意地悪を察してへらへら笑っている。
「仕事も大事だけどさ、家族だって大事じゃないのさ。君は仕事と家族とどっちを優先するの?」
オニイも母が面白がってわざと混乱させようとしているのに気付いて、ムキになってくる。
「だってさ、男にとって仕事ってのはさ、だってさ・・・」
男にとって・・・だってさ。

「仕事か家庭か」はさておいて、中2になったオニイの中になんだか生真面目な職業観が育ちつつあるという事が頼もしく思えた。
父さんの仕事の大変さも、働くという事の大切さもしっかり理解してくれるようのなってきたのだということが、父さんも母さんもホントはとっても嬉しいんだ。
そのこともきっと君は気付いているんだよね。


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