月の輪通信 日々の想い
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クリーングリーン作戦。 市内のあちこちのあるハイキングコースで、毎年この時期にいっせいに行われるゴミ拾いハイキング。各地区ごとに町役さんたちの先導で、ぞろぞろとゴミ袋を手に一時間あまり山道を歩き、ゴール地点で熱々のレトルトおでんを頂く。 我が家は子ども達が小さい頃からほぼ皆勤で参加している。 一番オチビのアプコは抱っこ紐の1歳児の頃から一緒に連れて行き、ベビーカーやアユコのおんぶの助けを経て、去年あたりから自力で歩いて踏破できるようになった。 毎年同じ時期に同じコースを歩くので、子ども達のそれぞれの成長振りが分かる。ついでに育ち行く子どものスピードを追うように老化していくわが身の体力の衰えも痛感したりする。
例年子ども達は全員参加で臨んできたクリーングリーン。 今年ははじめてオニイが当日ぎりぎりまで、参加を迷っていた。うっかり午後から学校の友達と遊ぶ約束を入れてしまったのだという。 今年は父さんも出張中で参加できないと聞いて、長男坊としては母と弟妹達のために参加してやらなくてはとも思うらしい。 「オニイももう中2なんだから、そろそろ自分の予定や友達を優先してもいいんだよ。『家族みんなで一緒に』ってのもそろそろ卒業かもね。」とは言ってやるのだが、心優しいオニイは家族と友情のハザマでいつまでも右往左往していたようだった。 結局、オニイは、午前中弟妹達と共にクリーングリーンに参加し、昼食を急いで食べて一人で下山、午後から自転車で友達の家に駆けつけるという強行スケジュールをとる事にした。 午前中のハイキングだけでも結構お疲れのはずなのに、タフなヤツ。 あっちにもこっちにも不義理が出来なくて忙しく立ち回る人の良さは、まるっきり父さん譲りだなぁ。
オニイの友達の一人が2学期になってほとんど登校してこない。病気なんだか家庭の事情なんだか不登校なんだか、いまいちはっきりしないのだけれど、もう一人の友達と一緒に様子を見に行くことにしたのだという。 ちょうど、彼が学校に来なくなった時期がオニイ自身の過敏性腸炎騒ぎの時期とも重なっていたので、何とか普通に学校へ行けるようになったオニイとしてはどこか放って置けない想いもあるらしい。 そのくせ「今日もKは、来なかったよ。」とたびたび言うものだから、「気になるんなら、電話でもしてみたら・・・」とけしかけてみても、結局オニイはなんだかんだと理由をつけて電話の一本すら長いこと躊躇してかけられなかったりする。 今朝も「今日Kにあったら、この間から貸しっぱなしになってるカセットテープをやっと返してもらえるよ」と言ったりするので、なんだ、Kくんに会うことにこだわるのはそのテープのためだったか・・・と、思ったりしていた。 友達が不登校になったからといって、青春ドラマのように説得に駆けつけたり、毎朝友達を迎えにいったりというような熱い友情のシーンは見られない。いまどきの少年達の友情って意外に淡白なんだなぁなんてちょっとしらけた思いでみていた。
「オニイ、その貸してるテープだけどね。 そのテープを貸してるって事で君の気持ちがK君につながっているんなら、Kくんにとってもそのテープを返さなきゃって思うことで友達や学校に気持ちがつながってるって事もあるんじゃないかなぁ。 そういうつながり方って、学校へ行けなくなってる子にとっては大事なんじゃないの?」 テープを返してもらったら、オニイとKくんのつながりの糸が切れてしまうのではないかという懸念をオニイに問うてみた。 貸したテープの回収が目的のように言われて、憤慨するかと思いきや、意外とオニイの答えは穏やかだった。 「うん、僕もそう思うねん。だから、今日また別のテープを貸してこようと思って・・・。」
やられたなと思った。 オニイがK君に会いたがるのは、貸したテープの回収のためではない。 Kくんとの糸がまだちゃんとつながっている事を確認して、更に強く結わえなおすためだったんだな。 それまで、Kくんに電話する事すらためらっていたのも、もしかしたら、学校へ来ないKくんの気持ちを想い量って、タイミングを逸していただけなのかもしれない。 熱血青春物語のようなドラマティックな展開はないけれど、彼らには彼らのささやかな友情の心遣いというのは確かにちゃんと芽吹いている。 現代の子ども達の、深く傷つけあう事を避ける淡白な友達関係のなかにも、彼らなりの心優しい思いやりはそだっていたのだなぁと心温まる思いがした。
午前中、オニイはしょっちゅう集団から外れて歩きたがるゲンを気遣い、アプコの駄々っ子を適当に聞き流しながら、弟妹をリードする長男のお役目を淡々とこなし、「じゃ、悪いけど、先、帰るわ。」と颯爽と一人で山を下っていた。 散々寄り道して後から帰宅すると、玄関にオニイの自転車はなくて、K君のうちへあわてて駆けつけていったのが分かる。 気配りの人もなかなかいそがしいねぇ。 夕方暗くなってから帰ってきたオニイの顔は、くたびれてはいるけど妙にさわやかだった。 「Kな、ちょっと見ない間に髪型が「ふかわりょう」みたいになってたわ。」と笑うオニイ。 なんで学校へ来ないのかと問うでもなく、元気出せよと励ますでもなく、ただただ普通に遊んで喋って帰ってきたらしい。 こういう淡々とした形の友情もあるのだな。 「かあさん、先に帰って悪かったね」と付け加える事が出来るようになったオニイが、今日はちょっと男に見えた。
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