月の輪通信 日々の想い
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2004年11月19日(金) 震える

また、幼い子どもの悲惨な事件のニュース。
私達の住むところから山一つ隔てた向こうの町。
車なら同じ国道を車で数十分の距離の場所。
被害にあった女の子はちょうどアプコと同じ年頃。
おまけにその子の名前はアプコの一番の仲良しさんと同じ名だ。
事件の新しい詳細が流れるたび、心が震える、胸が詰まる、いたたまれなくなる。

私にはアプコがいるから、
あのくらいの年頃の子が大人の言う事をどんなにあっさり信じてしまうかを知っている。
知らない大人と二人っきりにされたら、どんなに不安そうな顔をするかを知っている。
ちょっと転んですりむいただけでもどんなに痛がって泣くかを知っている。
毎朝、幼い子の髪を結い、「行ってらっしゃい、気をつけて」と当たり前に送り出す母親の気持ちも知っている。
子どもが怪我をしないように、寒い思いをしないように、怖い思いをしないようにと細心の注意で子ども達を見守っているのだという事も知っている。
ほんの数時間子どもが手元を離れただけで、ふっと不安になったり、物足りない想いがするかを知っている。
我が子が他人から理不尽に傷つけられたり嫌な思いをさせられたら、それがどんな些細な事でもどれほど腹が立つかを知っている。
そして、自分がおなかを痛めて生んだ子どもが、自分より先に思いがけなく逝ってしまうことの深い深い喪失感も知っている。

親がこれほど心を砕いて育て上げた子ども達を、使い捨てのおもちゃのようにいたぶって捨てる事の出来る人間が、今、この私と同じ空気を吸って生きているという事たまらなく腹立たしい。
怒りの気持ちがあまりに強くて、そしてもしも我が子だったらという恐怖の気持ちがあまりに強くて、呆然として一日を過ごす。

アプコの頬は柔らかくて、甘いにおいがする。
髪は細くてもつれやすく、さらさらと指にこぼれる。
抱き上げると意外にどっしりと重くて、まとわり付く手指や足の力が心地よい。
くだらない駄洒落で何度もケラケラ笑い、眠くなると甘えてふくれっつらをする。
走ると短いスカートの下のハム太郎パンツが丸見えで、いつまでもパタパタと幼児のような足音がする。
こんなにいとおしい大事な宝を、誰が理不尽に壊すのだ。
何の権利があって、こんな愛らしい生き物を犯すのだ。
この子らの夢に満ちた明日を、私達はどうやって鬼畜のような人間から守ってやればいいのだ。

心がざわざわと騒いで、まともに物を考えられなくなる。
ただただ、意味もなくアプコを抱き上げ、我が子らが今確かにこの手の中にいるということを何度も確認して胸をなでおろす。
犯人はまだ捕まっていない。
けれども明日もまた、子ども達はそれぞれに自転車で遊びに出かけ、どこかでそれぞれの世界を育んでいく。
いつもいつも親が付いて回って、四六時中危険や犯罪から守り続けてやることは不可能だ。
私は母として、我が子が不運な籤を引かぬように祈りながら子ども達を送り出すより仕方がないのか。
ただただ、震える。
ただただ、祈る。


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