月の輪通信 日々の想い
目次過去未来


2004年11月08日(月) 幼い子を抱く

阿倍野近鉄で、うちの窯の展覧会、会期中。
参観の代休のゲンとアユコを連れて、出かける。
昔から、うちの窯の展覧会が近くで開かれるときには、必ず全員そろって出かけていたのだが、今年はいろいろな予定が入って、土曜日にオニイ、アプコ、月曜日にゲンとアユコの分散型で会場に入ることになった。

子ども達が幼い頃には、静かな展覧会場に場違いな子ども達を連れていくのは本当に疲労困憊の大仕事だった。ベビーカーだの抱っこ紐だのを駆使して、子どもらがぐずったり走り回ったりしないように目を光らせて、退屈しのぎに同じデパート内のおもちゃ売り場や本屋を何時間も徘徊したりして、なんとかかんとか時間をつぶす。
それでも子ども達に父さんやおじいちゃん達の仕事の一端を見ておいて貰いたいと、できるだけ展覧会場には顔を出スようにしていた。
子どもらも大きくなって、会場で大声を出したり走り回ったりする心配もなくなり、「どの作品が好き?」程度の感想も聞けるようになり、ずいぶん楽になってきたなぁと実感する。

今日は会場に義妹のTちゃんが、娘のYちゃんを連れてきてくれた。
子ども達がいとこのYちゃんに会うのはずいぶん久しぶり。身近に赤ちゃんを見ることすら少なくなったので、こわごわほっぺをつついてみたり、「抱っこしてみたらだめかなぁ」と手を出してみたり・・・。
差し出されたポケットティッシュの袋をパタンと落としてキャッと笑う様子が可愛くて、ゲンは何度も何度も根気よく袋を拾う。
「かわいいなぁ」と何度も繰り返すので、「うちももう一人、赤ちゃん要る?」と訊いたら、速攻で「要らん!」とかえってきた。アユコも「30分くらいなら、預かってもいいけど・・・」と、笑う。
なんだいなんだい。子育ての終わったおばさんみたいなコメントだねぇ。
ちょうどお客様の途切れた父さんがやってきて、「これはこれは・・・」とYちゃんを抱いたけど、「父さん、もう一人、どう?」と訊くと、やっぱり「とんでもない、勘弁して。」と、即答。
ふむふむ、4人兄弟の育児は、そんなに大変でしたか。

それはともかく、Yちゃんのような小さな赤ちゃんを連れて、展覧会場のような気の張るところへ出かけるのは大変だなぁと改めて思う。
Tちゃんも、ベビーカーにいろいろ気晴らしのおもちゃをくっつけ、マグマグやふわふわせんべいを携帯し、ぐずったり泣いたりしないように絶えず気を配りながら、それでもにこにことやさしいお母さんの顔をしている。
若いなぁ。現役ママというのはこんなにいろいろ気を使いながらも、楽しげに赤ちゃんとの外出を楽しむパワーがある。
私だって、昔は就園前のちびっ子たちを3人引き連れて電車に乗る事も平気だったけれど、子ども達がある程度育った今、ずぼらになれたおばさんの体力ではとても無理。アユコの言うとおり、30分が限界かもしれない。
ぐずり始めたYちゃんをヒョイと抱えて揺らす若いTちゃんの目には、それでも「Yちゃんのお母さん」の貫禄も出てきて、いいお母さんになってるんだなぁと微笑ましい。

帰りの電車の中でも、ベビーカーに子どもを乗せたお母さんを見かけた。
Yちゃんと遊んで、小さい赤ちゃんの面白さに目覚めたゲンがやけに熱心にその赤ちゃんを眺めている。外出からの帰りで、どうやらオネムらしい赤ちゃんは、ぐずぐず泣いてお母さんを困らせる。お母さんが小さなおもちゃやハンカチを持たせると、ブンと投げては拾わせて遊ぶ。
「Yちゃんといっしょやね。」
ゲンには赤ちゃんの一見無意味なその遊びが、面白いらしい。
「あんただって、小さいときには飽きるほどやったよ。」
と笑う。オニイもアユコもゲンもアプコも、みんなああいう時期を越えて大きくなったんだ。

何度も何度も我が子がやみくもに投げた物を拾っては渡す。
そんな一見無意味なことを毎日毎日繰り返す。
幼い子どもを育てるというのは、そういう作業の繰り返し。
子ども達が少し大きくなった今だっておんなじ。
子ども達が投げるボールの行方をハラハラしながらそっと見てる。
失敗したら、よそ向いてる振りをしながら新しいボールを拾ってやる。
そんな風にして子育ての日々は積み上げられていくのだなぁ。

小さいYちゃんを抱いたときの、暖かく柔らかな重みの感覚がいつまでも手の中に残って、なんだかとても幸せだった。


月の輪 |MAILHomePage

My追加