月の輪通信 日々の想い
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朝の登園の道がそろそろ肌寒くなって、気が付いたら息が白かったりする。 今年は金木犀の開花が台風襲来に重なり、ほとんど甘い香りに気付くことなく、玄関先ではもう石蕗の黄色い花が咲き始めた。 小学校入学を意識して、「手をつながずに一人で歩く!」といっていたアプコが、また最近母の手に甘えるようにぶら下がって歩くようになった。 「だってあったかいんだもん。」 手袋をするほどでもない、でもなんとなく指先が薄ら寒くてたよりない。 そんな気持ちに正直に、アプコの小さな手が私の手の中に滑り込んでくる。 あろうことか、今日は4年生のゲンまでが「さむさむー」と首を縮めてアプコと反対側の手をつなごうとする。 こういう甘えんぼを照れもせず、いきなり実行に移せる事が兄姉と妹に挟まれた中間子の世渡りの知恵なのだろう。
「おかあさん、ゲンの一番あったかいトコ知ってる?」 なかなかゲンのように甘えんぼの出来ないアユコが横から割り込む。 「あのね、ゲンの背中とランドセルの間!」 私とアユコが同時に左右からゲンの背中のランドセルの隙間に手を入れる。 ついさっきまで走ってきた少年の体温は思いがけなく暖かく、やわらかく私の手を包む。 きゃっと笑って逃げ出すゲンの背中を目で追いながら、子ども達の体温が今すぐ手の届くところにある幸せを思う。
あちこち遊び回る夏が終わって、いろいろな行事に忙しい秋がすぎると、子ども達は母の手元に帰ってくる。毎年、毎年、そんな気がする。 お互いの暖かい体温が恋しくなって、あるいは台所で燃やす大きなガスストーブの暖を求めて、なんとなく子ども達がひとところに集まって、うじゃうじゃと身を寄せ合っている時間が増える。 さすがに中二になったオニイはカッコをつけて、そんなうじゃうじゃを避けたいそぶりを見せるけれど、それでも私にはまだ寄ってきてくれる幼い子らがいる。 外の風の音を聞きながら、暖かい台所で子どもらのマグカップにホットミルクを注ぎ分ける。そんな季節がまたやってくるのだ。
かの被災地では、もう、雪が降るのだそうだ。 冷たい瓦礫のしたから奇跡的に助かった坊やの冷え切った体はもう温かくなっただろうか。
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