月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
昼下がり、子ども達を車に詰め込んで近隣のショッピングセンターに出かける。 休日の午後という事で駐車場もよく込んでいて、ガードマンの指示にしたがうと車は店舗の入り口から一番遠い臨時駐車場に誘導された。 人ごみから少し離れた臨時駐車場にまわると、その入り口にたっているガードマンのおじさんの動きに目を奪われた。 赤い誘導灯をチアガールのバトンのように軽やかに投げ上げて、笑顔でこちらに手招きをしている。 一昔前によくコミカルに踊りながら交通整理をする警察官がTVで紹介されたりしていた事があるが、ちょうどあのかんじ。 「みてみて!」と指差して後部座席の子ども達が笑う。 車中の喝采に気付いたか、踊るおじさんはもう一回高々と誘導灯を投げ上げて、くるくる落ちてくるのを器用に背面で受け止めて、大サービス。 おじさんのパフォーマンスに見送られて、車はするりと立体駐車場に滑り込む。 「なんか、変なおじさん!」 「でもたのしそうだねぇ。」 ホワンとした楽しい空気が、車中にのこった。
多分、仕事で忙しく走り回っている時や何かのイライラを抱えているときだったら、きっと「不真面目な!」と癇に障っていたに違いないお気楽なパフォーマンス。 車の出入りも一番少ない比較的ひまそうな臨時駐車場で、勤務の合間の慰みに赤い誘導灯をくるくる回してみたら、面白かった。そんなたわいもない手慰みで始められたものか。それとも、そのパフォーマンスのゆえに、一番人目に付かない遠くの駐車場の閑職が割り当てられたものか。 たしかに、店舗に近いメインの駐車場の誘導員は厳しく唇を結んで、事務的に仕事をこなして忙しそうだ。パフォーマンス誘導員の彼は職場仲間の中では浮いた存在なのかもしれない。 それでもなお、楽しそうに誘導灯をくるくる回し、サーカスのピエロのような大仰なしぐさで来店者の車を誘導する彼の笑顔はなんだろう。
案内板の一つもあれば事が足るような単純作業の閑職を、なんだか朗らかににこにこと務めるおじさん。誘導員として有能かどうかは疑問だけれど、その楽しげな仕事振りはどこか見る人に心地よい脱力を促す。 憂き世を泳ぎ渡る毎日にくすっと小さな笑いをもたらしてくれるのは、意外とこういう勘違いな人の能天気なパフォーマンスだったりする。 そしてまた、こういうばかばかしい笑いを和やかに眺める事が出来るのは、穏やかな当たり前の日常が今、ここに漫然とあるからだ。 当たり前の日常を支える力というのは、こんな風にばかばかしいほどささやかな、一見意味のない誰かさんの手の中にもある。 そのことがちょっと嬉しく、暖かい。
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