月の輪通信 日々の想い
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子どもの頃、私は鬼ごっこが嫌いだった。 人並みはずれて走るのが遅かったから、あっという間に「タッチー!」と鬼に捕まったし、ひとたび鬼になるとなかなか次の鬼を捕まえられない。 ずーっと鬼のまんま、いつの間にか鬼ごっこが終わってしまっていたりして、つまらない思いをする事が多かった。 「かけっこの速い子にとってはさぞかし楽しい遊びなんだろうね」といじけた想いで友達の背中ばかり追っていた。 子どもには子どもの、ささやかな悩みというものはあるものだ。
朝、登園の道。 アプコは、一緒に歩く小学生のアユコやゲンと一緒に家を出る。 「早くしないとバスに遅れるよ!」 と折り重なるように玄関を飛び出すと、まもなくアプコが「お姉ちゃん、タッチー!」とお決まりの鬼ごっこを始める。 アユコとゲンが幼いアプコの後ろを追い、もつれ合ったり離れたりしながら、坂道をぐんぐん下っていく。 アプコだって、決して走るのが速いほうではない。父さん母さんの子どもだもの。 けれどもアプコは走るのが好きだ。 「お母さん、今日はかけっこ2番だったよ!」 嬉しい顔で報告してくれるので、よくよく話を聞いたら、二人で走って2番なんだそうだ。それでも嬉しいアプコは可愛い。 さすがにアユコやゲンは小さいアユコ相手に本気で鬼ごっこをするわけではない。 適当に追いかける振りをしたり、追われるスピードをちょっと落としてわざと捕まってやったり・・・。 運動不足の母には朝から元気盛りの子ども達と本気でお付き合いする気力もなくて、後ろからのたりのたりとついて行くのみ。 ゲンやアユコを捕まえ損ねたアプコが時々思い出したように母の所へ戻ってきて「タッチー」とやる。 私が気まぐれに子どもらの背を追うと、母の息切れを気遣ってアユコが「はい、鬼、ちょうだい」と手を出して鬼を替わってくれたりする。 キャアキャアと母のまわりを前になったり後になったりして駆けていく子ども達。 お兄ちゃんお姉ちゃん達に上手に手加減してもらいながら遊ぶアプコは、きっと鬼ごっこが大好きな子ども時代をすごすのだろう。 幸せなことだなぁと思う。
そして私も、自分のペースで胸をはって歩きながら、時々戻ってくる子ども達の「タッチー!」を受けとったり、気まぐれに幼い子どもの背中を追いかけたり、駆けていく子どもらの姿をニコニコと目で追ったりすることのできる今の鬼ごっこが好き。 母となって初めて鬼ごっこを楽しいと思えるようになったことの幸せ。 限られた母と子の時間を惜しむように楽しませてもらう。
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