月の輪通信 日々の想い
目次過去未来


2004年09月04日(土) 面白くないもん

思い立って、いなり寿司を作ることにした。
寿司揚げをたくさん買い込んで、甘辛く煮る。
椎茸、筍、人参を煮て、細かく刻む。
昆布を入れて寿司飯を炊く。合計12合。

昨日、閉店前のスーパーで生利節(なまぶし)も買ってきたので、一緒に押し寿司を作る。
この生利節の押し寿司は、おからベースの「くらわんか汁」や黄色い沢庵漬けの細巻き寿司「くらわんか寿司」と並んで、義父や義母が大事に伝えてきた枚方の郷土料理でもある。
何かの折には、お義母さんがよっこらしょっと大きな寿司桶を出してきて、たくさんこしらえて、お客さんに振る舞う。「いつかは、この味を次の代にも伝えて・・・」と言われながら、「やっぱりご馳走になるほうがいいですぅ」とお義母さんの作ったものを頂くばかりになっていたのだが、たまたま魚屋で生利節をみつけたものだから、思い立って義母の味を真似てみることにする。

生利節は刻んで、酒、醤油、みりん、砂糖などで、汁気がなくなるまで煮詰めてそぼろにする。
「なまぶしは、甘めの味にしてね。」という義母のレクチャーを素直に受けて、いつもより気持ち甘めに仕上げたら、確かに義母の味に近いそぼろが出来た。借りてきた型に寿司飯を詰め、そぼろを乗せ、ぎゅうと押さえて押し寿司にする。
「お手伝い、する!」とちょろちょろしていたアプコが、砂遊びの要領でぎゅうぎゅうと体重をかけて、押してくれた。
少々形はいびつだが、なんとなくそれらしいものが完成した。

で、いなり寿司。
当初、アユコが「いなり寿司を作ってみたい」といっていたので、一緒に作るつもりで買い物にいってもらったりして取り掛かったのだけれど、午後になって急に友達から遊びの誘いの電話が入った。
「おかあさん、行って来てもいいかなぁ」と一応気を使って訊きはするものの、いきたい気持ちは顔に出ている。
「いいよ。行っておいで。」と送り出してから、なんだかつまらない気持ちが残る。
大好きなオネエがでてしまって、アプコもしょんぼり。
かわりに台所に立つ私の周りでちょろちょろまとわりつく。
オニイやゲンはそれぞれ、2階の部屋にこもって遊んでいるし、父さんは夕方から急なお葬式が入ったので、工房での段取りにおおわらわ。
取り残されたアプコと母が、なんとなく共通の「つまんないな」の気分で寿司飯を混ぜる羽目になった。
こてこてと40組のお揚げに寿司飯を詰める。
途中、アプコがあんまり熱心に眺めているものだから、出来上がったお稲荷さんをひとつ小皿に入れてお味見させる事にした。
「いいの?内緒でたべていいの?」と嬉しそうなアプコ。
置いてけぼりのつまらない気持ちが少し晴れて、「内緒、内緒」とお寿司を頬張る。

「わ、いっぱいできたね。」
夕方、ようやく2階から降りてきたゲンがずらりと並んだいなり寿司に寄ってきた。
「ね、一個ちょうだい?」
「じゃ、お皿持ってきて一個だけね。」
お稲荷さんの楽しさは、みんなで「いただきます」の前の内緒のつまみ食い。
嬉々として食べ始めたゲンにお茶を入れていると、アプコがこそこそっとそばにやってきた。
「ね、なんで、ゲン兄ちゃんも食べてるの?」
「ああ、おなか空いてるんでしょ。」
「でもね、でもね。」
アプコ、ゴチンと私の腰に激しい頭突き。
「どしたの?怒ってるの?ゲンにお寿司あげたらいかんの?」
「・・・・おもしろくないもん。」

アプコと二人、ちょっとイライラしたりしながらのお寿司作り。
アプコにとっては母と二人の取って置きの内緒の時間だったんだな。
だから、内緒のご馳走をゲンにも許しちゃうのが、ちょっと面白くなかったのだ。
「お寿司、アタシがおばあちゃんちへ持って行ってくる!」
押し寿司とお稲荷さんを小さな重箱に詰めて、風呂敷包みにしてアプコがお使い。
たくさん作っておすそ分けもお稲荷さんの楽しさ。
すっかりご機嫌を直したアプコがぴゅーっと駆けていく。
大きな寿司桶を洗いながら、こどもの頃、母や祖母と作ったお稲荷さんの味を思い出した。


月の輪 |MAILHomePage

My追加