月の輪通信 日々の想い
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2004年05月26日(水) 小さな胸に

買い物に出た。
この日曜日のお茶会用に、子どもたちの「ましな服」を買う。
アユコには以前に用意してあったコットンのワンピースがあるので、服を買わずに新しいブラを買った。
ショーツとセットになったブルーの水玉模様のブラのサイズはA65。
ジュニア用のスクールブラの中では一番小さいサイズ。それより小さいサイズになるとカップやホックのないスポーツタイプのブラが主流になる。
ほんとなら、やせっぽちのアユコにはまだまだそちらの方がいいのだけれど、デザインの選択の巾はぐんと狭くなる。ストラップとホックのついたおねえさんタイプの方が断然可愛いのだ。
「そのうち成長するんだし,大きすぎても、ま、いいか。」
母の好みでちょっと背伸びをしたお姉さんタイプのセットを買った。
「こんな小さなブラで、間に合っていた少女の頃が懐かしいわぁ。」
帰り道に出会った友人に買い物袋の口を開け、買ったばかりのアユコのブラを見せる。
「ホンマになぁ、はるか昔のことで忘れてしもたわ。」
と二人で笑う。

アユコがブラを付け始めたのは去年の秋。
まだふくらみはないけれど、白いTシャツなどを着ると可愛いさくらんぼのようなぽっちりがちょっと目立つ。
ホントはアユコの初ブラジャーはもっと以前に買ってあったのだけれど、「見てみて、こんな可愛いブラを買ったよ」と見せたとたん、なぜだかぽろぽろと泣かれてしまい、「いいよいいよ、無理してつけなくったって・・・」と引き出しの奥にしまいこんでいたのだった。
秋になり、トレーナーやセーターを着るようになって、下着の線が外からわからなくなると、アユコは自分でブラジャーを引っ張り出してつけてみるようになった。
少女の心は誠に繊細で複雑だ。
大人の入り口に立つ嬉しさと、「あの子,つけてるんだって。」とうわさの的にされたくない恥ずかしさで,少女の心は揺れ動く。

「Aちゃんは、私よりずっと胸も大きいのに、おうちの人はブラジャーをつけなさいって言わないんだって。」
まるで「いいなぁ、門限がゆるくって・・・」とでも言うような、うらやましそうな口調で言うアユコ。
確かに私の目から見ても、仲良しのAちゃんはアユコよりずっとナイスバディで、そろそろノーブラではハラハラと危なっかしく見える女の子。
はじめてのブラを着けるタイミングは難しくて、いつまでも子どものように見える娘に「異性の視線」を意識させるのにも抵抗はある.
でも、これからの薄着の季節、やっぱり女の子は自分の身を守ることもおしえておかなくっちゃなぁ。

「ねぇ、ブラジャーを着けるのって,そんなに抵抗があることなの?」
思春期のデリケートな心情など太古の昔のことになってしまった母は、改めてアユコに訊く。
「母さんは、はじめてのブラを着けた時、とても嬉しかった気がするんだけれど、アユコはそんなに嫌々着けてるの?」
「う〜ん、そうでもないんだけどね。」
やはり友達の目や、日々変わっていく自分の体が気になって仕方がない様子。
「そっか、確かに面倒臭いものね。
でもねぇ、お母さんにとっては娘のはじめてのブラジャーを選んでくることや娘のTシャツの背中にブラの線が見えるようになることって、なんだかとっても嬉しいことなのよ。」
素直にうなずくアユコの視線がたまらなく愛しくなる.
「お母さんは、アユコに可愛いブラジャーを買えて、わくわくしてとっても嬉しかった。
Aちゃんのお母さんだって、ホントはAちゃんと一緒にはじめてのブラを選ぶ日を楽しみにしているのかもしれないね。」

幼い娘が成長し、自分と同じ「女」としての門をくぐる。
その時の晴れやかで暖かい母の幸せを、少女の頃の私は理解していたのだろうか。
「おかあさん、新しいの、買ってくれてありがとう。」
お風呂の前に、微妙に大き目のブラを身につけて、こっそり見せてくれたアユコは確かに今のわたしの喜びを充分に汲んでくれている。
アユコは賢い娘になった。 


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