月の輪通信 日々の想い
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父さんが午後から神戸方面で、友達の個展を見に出かけるという。 お天気のいい日曜日。 おうちでうだうだもいいけれど、せっかくのお休みだし、「行こう行こう」とおにぎり弁当を作ってぞろぞろと車に乗り込む。 朝から剣道の稽古の男の子達を道場でひろって、びゅんびゅんと高速を目指す。 わぁい、久しぶりの遠出だ。 神戸へ行くのも久しぶり。
幼い頃、「街へ行く」というと、たいてい神戸だった。 震災前のバリバリ元気のよかった三宮。 母とよく行った老舗のサンドイッチパーラー。 いく度にワクワクした大きな手芸屋さん。 いつも豚まんをお土産に買った中華料理店。 英語がぺらぺらの矍鑠とした老婦人が切り盛りする服地やさん。 甘栗の大袋を買って、オーバーのポケットの中で殻を剥いて食べながら歩いた元町商店街。 父と、母と、弟達と楽しく歩いた神戸の町。 震災後はずいぶん雰囲気は変わったけれど、やはり何か楽しいことに出会えそうなワクワクがいっぱい残る街。
以前と大きく変わった場所といえば、南京町。 テイクアウトの屋台が所狭しと立ち並び、観光客がひしめきう現在のこの街は、子供達をつれてあちこち少しずつつまみ食いして歩くのには楽しい街になった。 即席おにぎり弁当で物足りない分をさっそく小さなカップのラーメンで補う。 お行儀が悪いのを承知で、広場の地べたに座り込み、子供達がそれぞれに厚いラーメンをすする。早く食べ終わった子を連れて、揚げシューマイだの胡麻ダンゴだの新たなおいしいものを買い出しにいく。 人ごみの苦手なおのぼりさんツアーには、ちょっと過酷な混雑ではあったけれど、それぞれに好きな物を食べ、珍しい食材や中国の雑貨に触れ、ちょっとだけ「異文化交流」を経験して、楽しく過ごした。
帰りに夕食用にと冷凍の水餃子や細麺の生ラーメン、父さんの好物の焼豚などを買う。 そして、子供達が興味深々だったピータンを二つ。 これまでにもどこかで食べさせたことがあるとは思っていたのだけれど、殻つきの土をかぶったままのピータンを見るのはどの子も初めて。 「何事も経験」とさっそく購入。 帰宅後、遅い夕食の準備をする傍らで、父さんが子供達と一緒にピータンの殻を剥いた。 土に中から現れる卵に唖然。 殻を剥くと現れる真っ黒な白身に呆然。 なかなか面白いお土産だった。 「まあまあ、食べられるな。」 普段好き嫌いの多いオニイが珍しく一口。 「何だか気持ち悪いけど・・・」 食材に対する探究心旺盛なアユコも一口。 はじめから食べ物と認知しないアプコは当然パス。 「大しておいしいものでもないんだけどね」 と、突っつく父母の影で、一人しり込みしているゲン。 珍しい食べ物はたいがい一番に食べたがるゲンなのに、ピータンに関しては食わず嫌いを貫くようだ。 「こういうの、苦手かも・・・」 珍しく弱気の発言。意外だった。
わが子には、知らない食材にも果敢に挑戦できる大胆さを育てたいと予ねてより考えている母としては、今後の課題が一つ増えた。
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